コラム

クールジャパン機構失敗の考察......日本のアニメも漫画も、何も知らない「官」の傲慢

2022年12月11日(日)20時27分

しかし政治家が文化事業にかかわる、と公言して国策として予算を付けるのであれば、最低でも『四畳半神話大系』くらい観ておけ、と誰かが言うべきではないか。もちろん投資行動を実際に行うCJ機構の中の人は必須だ。何故それをしないのだろう。興味が無いからだ。まるでカルチャーに対し無関心だからである。このような堕落・怠惰・傲慢・無知が煮詰まったのがCJ機構であり、つまりCJ機構の失敗の本質とはすべてここにあるのである。

日本の農産品は高付加価値だ、と信じ込んでありえない値付けをして展示し、誰も買わないので産廃処理される。既に日本のファストファッションが膨大な試行錯誤を行って現地の市場を開拓しているのにそれを無視し、「日本ブランドであれば現地の消費者も関心を持つ」と傲慢に錯覚して誰も買わない服やアクセサリーを展示していく。『ZARA』や『H&M』は高いデザイン性のわりには廉価な価格帯や企業の宣伝が受けたのであって、その国の政府が予算を付けた結果、世界的なファストブランドになったわけではない。そもそも、或る特定の文化的コンテンツは完成度が高ければ自然に海外にファンを獲得するものであり、政府が旗を振る必要があるのか。

それよりも、日本のテレビやネットで放映されたアニメがものの数分後には中華圏のネット動画に違法アップロードされる事実の方が、政府として真っ先に取り組むべきことではないのか。コンテンツは国家がごり押ししなくても強いファンを形成する。

あらゆる世界的コンテンツに政府の支援は無い

ジョージ・ルーカスの『スターウォーズ』や、ジェームス・キャメロンの『タイタニック』や『アバター』は、アメリカ政府が予算を付けて海外に普及させた結果、歴史的な興行収入を生んだのだろうか。まったく違っており米政府は1ドルも使っていない。逆に村上春樹氏の作品が海外で根強いファンを獲得したのは文化庁や文部科学省の努力の結果なのか。黒澤明監督が世界中でリスペクトされているのは政府の努力の結果なのか。勿論そんな事実は一切ない。

日本のアニメや漫画もゲームも、あらゆるコンテンツは自由競争の中、その完成度が高いがゆえに世界中のファンを魅了した結果、自然に受容されたものであり、日本政府の力ではない。後から政府が成長戦略が~と乗っかる形でCJ機構を作っただけで、そんなことをしなくとも日本産コンテンツは十分に強いはずだしこれからも強いだろう。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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