コラム

「プーチンさんを悪く言わないで!」という「陰謀論」動画の正体

2022年03月09日(水)18時56分

この動画の中には様々な単語が出てくる。核になるのはDS、ネオコン、ユダヤ人(系)の三つである。この三つが相互複雑に関係しながらも結局は全部一緒に連動してウクライナ紛争に介入し、反プーチン運動を策動しており、これを日本のメディアは一切報じないという世界観が、大まかに言ってこの動画の趣旨である。

そもそもまずDSなるものは存在しない。次にネオコンだが、一般的には新保守主義と訳されるが、この動画の中での明確な定義はない。ユダヤ系については、そもそも伝統的にヨーロッパ広域に(限らずだが)存在しているが、何故そのユダヤ系がハーケンクロイツを振りながらロシア人を虐殺しているのか、篠原氏は「ショックだ」というだけで理由は説明されていない。

アゾフ大隊は当時、親露派と戦う義勇部隊として確かに存在し、現在はウクライナ軍の一部となっている。当時アゾフ大隊がナチスを彷彿とさせる紋章類を使用していたことは事実である。

が、彼らがロシア人を虐殺したという事実は立証されていない。OSCEが立ち会って、虐殺と認定した事実もない。またアゾフ大隊の支援者のひとりがコロモイスキー氏であることは事実だが、アゾフ大隊の全部がユダヤ系では当然ない。アゾフ大隊がナチスの紋章類を使用したのは、独ソ戦でドイツがソ連に侵攻したために、親露派をソ連に見立てたのが理由ではないかと思われる。いずれの発言も事実を立証できないものばかりだが、馬渕・篠原両氏はこれを「事実」として、ウクライナ危機の「真実」だと断定する。

アメリカの報道も日本の報道もディープステートの策略

もうひとつの動画、"【桜無門関】馬渕睦夫×水島総~"はどうか。こちらの動画は、前掲した"「ひとりがたり馬渕睦夫」#40~"が約2年前に公開されたのと比して、その公開日はまさにウクライナ侵攻当日の2022年2月24日である。但し収録番組なので、実際の発言は2022年2月22日(侵攻2日前)になされたものである。これも馬渕氏とネット放送局・日本文化チャンネルの代表の水島総氏との対談という形で構成されている。主要部分を抜粋してみよう。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国

ワールド

ロシア中銀が0.5%利下げ、政策金利16% プーチ

ワールド

台北駅近くで無差別刺傷事件、3人死亡 容疑者は転落
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story