コラム

リベラルは何故こんなにも絶望しているのか~「保守」にあって「リベラル」に無いもの

2021年09月22日(水)15時13分

この言葉は、現在の政治状況を皮肉ったものでは無い。田中金権腐敗政治を鋭く糾弾した、ジャーナリストの立花隆氏がその著書『巨悪VS言論』(文藝春秋)で、田中角栄をぶった切った際の文章である。立花は、田中政治を「民主主義のルール破りだった」と断罪する。

言うまでもないが、田中角栄は自衛隊機を含む「ロッキード疑惑」に関係して、1976年7月に逮捕された。元総理の逮捕という前代未聞の事件に日本はもとより世界中も注目した。長い裁判の後、田中は1983年10月に第一審の東京地方裁判所で懲役4年の有罪判決を受けた。世論は、田中角栄はクロだ、という印象が強くなった。このような田中批判の中で行われたのが、1983年衆議院総選挙だった。正しく立花の言う「民主主義のルール破り」を行った自民党への国民の審判が問われた。

当時、「"田"中曽根内閣」と揶揄された中曽根康弘率いる自民党は、歴史的大敗を喫した。このとき衆議院の定数は今より多い511議席だったが、自民党は250議席を獲得して第一党の地位を堅守したものの、単独過半数を割れこんだ。これでは政権が維持できないから、無所属当選議員を勧誘して何んとか自民党政権を維持した。この時、野党第一党である社会党の獲得議席は112議席であった。この数は、現在の立憲民主党の議席数と大差ない。

ロッキード疑獄は、第二次安倍政権下に於ける「桜を見る会」の疑惑とは金額的には比較にならない規模であった。丸紅ルート・全日空ルートなど、数億以上のカネが動いたとされる戦後最大の疑獄である。よってそれを「民主主義のルール破り」「いつ収賄罪などで逮捕されてもおかしくないような人々が、次々と総理大臣の座についた」り、と評することはなんら不思議は無いが、こんな元総理の逮捕と起訴、有罪判決が出て田中金権政治への不満が頂点に達した1983年末の総選挙でさえ、逆に言えば自民党は過半数ぎりぎりに踏ん張り、対抗軸たる社会党は伸びたとは言え衆議院の1/5強を確保するにとどまったのである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story