コラム

力に目覚めた無関心なエジプト人

2011年01月26日(水)17時27分

pass_120111.jpg

どこがノンポリ? ムバラク退陣を要求して警官隊と衝突したデモ隊(1月25日、カイロ)
Asmaa Waguih-Reuters


 ここ数時間、エジプトで拡大する反政府デモの様子を知るためにツイッターに釘付けになっている。今回のデモはエジプトの祝日「警察の日」に合わせてかなり前から計画されていた。「警察の日」はもともと、1952年に駐留イギリス軍に対して立ち上がったイスマイリアの警官たちを称える日。だが近年は強権体質の警察が煙たがられていることもあって、ホスニ・ムバラク政権のさまざまな欠点を象徴する日になっている。

 今年はチュニジアの革命に感化された人々がフェースブックを使って、これを「怒りの日」にしょうと呼びかけた。彼らは、アレクサンドリアの若者ハリド・サイドが警官に激しい拷問を受けて殺害された昨年の事件にも怒りをみせる。

 彼らの抗議計画は予想以上の成果を収めている。デモは西はギザのドッキ、北はシュブラまでカイロ周辺の街のいたる所で始まり、そこからカイロ中心部へ流れてきた。街の要所であるラムセス、アブディーン、アタバ、タハリール広場に大勢の群衆が集結と報じられている。アレクサンドリア、マンスーラ、シナイといった他地域にもデモは広がっている。

 ただし、「大規模」な抗議行動が起きていると言うのは時期尚早だ。エジプトの人口は約8000万人で、今のところデモ参加者が10万人を超えたという報道はない。それでも、本当に大きなデモに発展する可能性はある。暴行や催涙ガス、放水銃が使われている場所もあるが、警察は基本的に不干渉の方針を取っている。

■弱かったデモ鎮圧部隊

 デモが大きくなれば、ムバラクはチュニジアのゼイン・エル・アビディン・ベンアリ前大統領と同じジレンマに直面するだろう。本気で鎮圧するか、デモ隊の要求に歩み寄るか(非常に評判の悪いハビブ・アルアドリ内相の更迭など)、もしくはその両方を行うかだ。

 デモ隊鎮圧を担当する中央保安軍(CSF)の機動隊は、ほとんどが北部出身のやせておどおどした青年たち。きちんとした教育を受けておらず、技能も装備も乏しく、給料も低い。CSFがデモ隊に打ち負かされ、引き下がったとの報道も多い。ムバラクは今日、彼らが頼りにならないことを思い知っただろう。

 一方、100万人以上の兵士を抱える軍は装備も充実し、自分たちの権益を守る動機も十分にあると思われる。ムバラクは彼らのほか、警察や治安当局のさまざまな力を頼りにデモの組織者を追うはずだ。春にはエジプトの街で戦車を見ることになるのだろうか?

 そこまで事態は進展しないかもしれない。だがエジプトの人々は今日、自分たちの力を再認識した。静かで何事にも無関心、ノンポリと思われてきた彼らは目が覚めるような感覚を味わったはずだ。ムバラクは今晩よく眠れないだろう。

 しばらくエジプトから目が離せない。

──ブレイク・ハウンシェル
[米国東部時間2011年01月25日(火)9時15分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 26/01/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハセット氏のFRB議長候補指名、トランプ氏周辺から

ビジネス

FRBミラン理事「物価は再び安定」、現行インフレは

ワールド

ゼレンスキー氏と米特使の会談、2日目終了 和平交渉

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 6
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 7
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 8
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story