コラム

「世界平和のことは大国中国が決める」

2010年12月10日(金)15時40分

 中国版ノーベル平和賞を創設しようという北京の大学教授らの愛国的な試みは今日、目も当てられない失敗に終わった。肝心の受賞者は出席しないし、中国政府もこのイベントに距離を置いた。

 初の「孔子平和賞」に輝いたのは、台湾の連戦(リエン・チャン)元副総統。中台関係の改善に尽力したという理由だが、授賞式には欠席。選考委員会は受賞者本人に通知もしなかったのだ。代わりに賞を受け取ったのは関係ない少女。「平和の天使」という触れ込みだ。

 賞創設の背景はまだ謎のまま。賞の存在が発表されたのは3週間前。奇怪なことに、主催者らはこの賞のために1988年から準備に入り、「儒教の知恵」を求め続けてきたと主張した。また主催者らは当初、中国政府文化部の協力を得てきたと言っていたのだが、中国政府は関わりを一切否定し、国営メディアも賞のことはほとんど報じなかった。

 ちなみに報道によれば、連戦の他にはビル・ゲイツ、ジミー・カーター、ネルソン・マンデラ、マフムード・アッバス、パンチェン・ラマ11世(もちらん、中国政府が認定したほうの)などが孔子平和賞の候補に挙がっていたという。

 選考委員たちはこの賞が、ノーベル平和賞を受賞した中国の民主化活動家、劉暁波(リウ・シアオポー)に対抗したものだとは認めないし、明日は授賞式なのに刑務所に捕われたたままの劉の名にすら言及しない。だが公式声明では、(ぎこちない英語で)ちっぽけなノルウェーにあてこすりを言っている。


 中国は平和の象徴だし、平和を維持する絶対的な力も持っている。10億人以上の人口を抱える中国は、世界の平和についてより大きな発言権を持って当然だ。要するに、ノルウェーは土地もなく人口も少ないちっぽけな国に過ぎないので、自由や民主主義に関する発言権は相対的に小さくならざるをえない。従って「ノーベル平和賞」の選考は世界の人々に委ねられるべきであり、少数の思い込みで選ばれるべきではない。なぜなら彼らは人類全体を見渡す一番の高みに立つことはできないし、世界人口の大多数の見方を代表することもできず、選考が偏って誤ったものになることは避けられないからだ。

 

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年12月9日(木)12時37分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 10/12/2010.© 2010 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story