コラム

国王86、王子86と77のサウジ長命問題

2010年11月17日(水)16時55分

 82歳を迎えたエジプトのホスニ・ムバラク大統領が死去したら、後継問題をめぐって大混乱が起きるという懸念は、以前から熱く論じられてきた。だが、それ以上に深刻な後継者争いが勃発しそうなのが、86歳のアブドラ国王が君臨するサウジアラビアだ。

 先週末、アブドラ国王はメッカ巡礼者を祝うイスラム教の祭事「ハジ」に姿を見せなかった。国営メディアによれば、国王が今回、毎年恒例の公務を休んだのは、椎間板ヘルニアで療養中のためだという。

 国王の代理を務めたのは、内務相と第2副首相を兼任する77歳のナエフ王子だ。もっとも、アブドラ国王が死去した場合の公式な第1王位継承者は、国王の弟で国防相を務める86歳のスルタン王子。だがスルタンは重病を患っており、実際に王位に就けるかどうか疑わしい。

■国営メディアは火消しに躍起

 アブドラのハジ欠席が引き起こす様々な憶測を払しょくするために、国営メディアはスルタンがモロッコで重要な政務を執り行っている様子を公開した。サウジの街ジェッダでの空港建設の契約書にサインしている写真だ。

 病状に関する噂話を打ち消すために、アブドラ国王の動静についても大々的に報じられた。国王が16日に王子や外国政府要人と昼食を共にして健康不安説を吹き飛ばしたという国営メディアの発表は、4度もアップデートされた。さらに国営メディアは、杖にもたれて立っているアブドラの写真まで公開した。

 アブドラ国王とスルタン王子、ナエフ王子の体調が今すぐ悪化することはないかもしれないが、高齢の彼らが今後も長期に渡ってサウジアラビアの権力を担い続けるというシナリオは現実味が薄い。
 
 ワシントン中近東政策研究所のサイモン・ヘンダーソンは先月、フォーリン・ポリシー誌に寄せた記事で、3人の高齢指導者が自身の息子や弟に権力を委譲した場合のシナリオを検証した。後継者たちは当然ながら、自身の家系が権力を受け継ぐことを望んでいる。

 ヘンダーソンはこんな疑問も投げかけている。「大きな謎がある。アブドラ国王とスルタン王子は自ら望んで公の場に姿を見せているのか、それとも、自分の家系が今も後継者争いの政治ゲームに参加していると誇示したい息子たちのためなのか」

──デービッド・ケナー
[米国東部時間2010年11月16日(火)17時08分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 17/11/2010. © 2010 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ナスダックが取引時間延長へ申請、世界的な需要増に照

ビジネス

テスラ、ロボタクシー無人走行試験 株価1年ぶり高値

ワールド

インド、メキシコと貿易協定目指す 来年関税引き上げ

ビジネス

フォードEV事業抜本見直し、7車種生産・開発打ち切
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story