コラム

ソマリア・アルシャバブの二枚舌広報

2010年09月07日(火)17時44分

 崩壊寸前のソマリア暫定政府は今週、いつになく大量のプレスリリースを流して支援を求める見込みだ。そこにはソマリアで発生する数々の攻撃や戦闘の現状、治安の悪化などが書き込まれていることだろう。中でも最も興味をそそるのは、8月28日の発表資料。「アルシャバブが独自の報道体制を構築しつつある」というものだ。

 今やソマリア南部の大半を手中に収めているイスラム武装勢力アルシャバブは、民間のテレビ局やラジオ局を略奪し、その施設を自らの宣伝に利用している、と説明している。加えて「アルシャバブはソマリア南部と中部の一部で、学校やモスク、セミナーを通じた伝統的なコミュニケーションの手法でも大量のプロパガンダを流し始めている」という。

 これが何を意味するのかに興味を引かれ(そしてアルシャバブのような組織の情報発信法に好奇心をそそられて)、私は調査を始めた。コメントはオフレコでしか集められなかった。アルシャバブを批判する発言をする者は(あるいは単にアルシャバブについて語るだけでも)、執拗に脅迫を受けるからだ。そんな状況下でも、私は以下のような情報を得た。

 アルシャバブは長い間、国際メディアとやり取りを続けている。テレビ会議を通して話すのが主で、まれに直接会って取材を受けることもある。報道官が1人いて、ジャーナリストとのインタビューをアレンジしている。彼らが世界に向けたメッセージは、各地に散らばるソマリア人の支持を得られるよう、報道官が補足したうえオンラインメディアで発信する。ネットを通じた支援者獲得のため、この作業にはとりわけ力を入れていると言われている。

 だが地元住民に向けた彼らのメッセージはまた話が違う。アルシャバブのコミュニケーションの手段は、基本的には対面式の話し合い。特別な政策やメッセージ、時には刑罰の執行を知らせる手段として用いられてきた。

 そういったとき、彼らはその時々の戦闘の実情や犠牲者の数などを巧みに話題に盛り込んだ。その結果、少なくとも首都モガディシオでは、人々の非難の矛先はもっぱら政府支援のため駐留していたアフリカ連合(AU)平和維持部隊に向けられた。

■国際社会と国内向けで使い分け

 7月11日、ウガンダの首都カンパラのレストランでサッカーワールドカップ(W杯)観戦中の人など70人以上が死亡する連続爆破テロが起きた後、アルシャバブは世界に向けて犯行声明を行った。だが地元に人々に伝えたメッセージは実にシンプル。ウガンダ人の血が流れれば世界の注目が集まるが、ここソマリアで毎週数百人が死亡しようと国際ニュースになどならない、というものだ。

 ジョージ・ワシントン大学国家防衛戦略研究所のダニエル・キメージによると、これはよく使われる戦略だという。国際社会向けと地元の人々向けで、まったく異なるメッセージを発信するというものだ。例えばイラクでは、イスラム過激派が国際社会にメッセージを発信する場合、「イスラム教徒とキリスト教徒の巨大な文明戦争」に焦点を当てる。その一方で、「地元の人々に向けては、例えば羊泥棒のようなちょっとした犯罪者に対して警告を発する程度だろう」

 国際テロ組織アルカイダはこの構図にどの程度当てはまるのだろうか。アルシャバブはアルカイダとの連携を主張しているが、実際の従属関係は明らかになっていない。分かっているのは、キメージも指摘するように、アルカイダの「メディアセンター」ともいえるアルシャバブが、ソマリアのニュースを売り出し始めたということ。彼らは日々の事件を伝え、ジハード(聖戦)への参加を呼び掛けている。

 そこから見えてくるのは、アルシャバブが主張するアルカイダとの連携が双方にとって重要な意味を持つ、ということ。つまり、アルシャバブがアルカイダを心から慕っているだけではなく、アルカイダもアルシャバブとの関係を同じくらい歓迎している、ということだ。

「アルカイダは系列組織からできるだけの宣伝効果を得ようとしている」とキメージは言う。「アルカイダの中枢は包囲され、ジハードに貢献できる人材は限られている」

 残念なことに、その点はアルシャバブがいくらでも提供しているようだ。

──エリザベス・ディッキンソン
[米国東部時間2010年09月03日(火)17時12分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport",7/9/2010.©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story