コラム

ソマリア無視の大きすぎる代償

2010年08月26日(木)18時53分

passport_080810.jpg

終わりなき混沌 首都モガディシオで、アルシャバブ襲撃の犠牲になった
国会議員を運び出す兵士たち(8月24日) Omar Faruk-Reuters

 ケニアの新しい駐米大使エルカナ・オデンボは、アメリカへのメッセージを携えて着任した。「ソマリアを無視すれば、アメリカ自身に禍が降りかかる」というメッセージだ。

 ケニアの隣国ソマリアは、この5年間で無政府状態に近い国から、アフガニスタンのタリバン政権崩壊以降見かけなかったイスラム原理主義国家に向けて方向転換をしてきた。

「アフガニスタンとパキスタンにこれだけ投資しながら、テロリストがどこに向かっているかを気にしないなんてありえない」と、オデンボは警告する。「彼らが向かっている先として確実にわかっているのがソマリアだ」

 その事実は疑いようがない。ソマリアの状況は一段と悪化している。2006年以降、イスラム原理主義組織アルシャバブをはじめとする多くの武装集団が、国土の大半を制圧してきた。アルシャバブは8月24日にも首都モガディシオのホテルを襲撃し、国会議員8人を含む30人以上を殺害したばかりだ。
 
 アルカイダとつながりのあるアルシャバブは東アフリカでのジハード(聖戦)を掲げ、ソマリアで平和維持活動に従事する国々への報復を行っている。7月11日には、ウガンダの首都カンパラで2件の爆破テロを実行。アルシャバブ初の国外でのテロ行為は、ウガンダが平和維持活動に参加したことへの報復だという。

■アフリカ連合まかせでは解決しない
 
「このテロによって、アルシャバブが単にソマリア政府の足を引っ張るだけの武装勢力ではないことが明確になった。彼らはこの地域がかかえる問題であり、つまりは世界全体の問題だ」と、オデンボは言う。

 それなのにアメリカや国際社会は、アフリカ連合(AU)に平和維持活動を強化させることで問題を解決しようとしている。実際、手の施しようがないほど困難な使命を遂行すべく、平和維持部隊の増派を約束しているアフリカ諸国も少なくない。

 だがオデンボに言わせれば、それでは不十分だ。「50人の部隊がやってきて、次に70人の部隊がやってきて、今度はいくらかの資金が与えられ、いくらかの機材が与えられる。そんなバラバラな支援ではダメだ」

 ではどんな支援が必要なのか。武装勢力を探し出して叩きのめすしか解決の道はないと、オデンボは言う。「私が入手した数字によれば、相手は3000人か、せいぜい4000人の集団だ。国際社会が本気で彼らを追い詰める気なら、アフガニスタンに展開したような兵力を投入して、奴らを追うと宣言すべきだ」

 それは難しい注文だ。ソマリアどころか、アフガニスタンへの派兵でさえ自国民の理解を得るのは困難なのだから。

 だが、ケニアはすぐ隣に崩壊国家が存在することのリスクを熟知している。ケニアはこの20年間、ソマリアが終わりなき無秩序状態に陥る様を目撃し、その影響を肌で感じてきた。現在も、50万人以上のソマリア人難民がケニア北部に滞在している。

 だから、アメリカはケニアの忠告にしっかりと耳を傾けるべきだ。ソマリア問題を解決するのは容易ではない、という忠告を。

──エリザベス・ディキンソン
[米国東部時間2010年08月25日(水)10時29分更新]


Reprinted with permission from "FP Passport",26/8/2010.©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ワールド

マスク氏、トランプ氏の歳出法案を再度非難 「新政党

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで約4年ぶり安値、米財政

ワールド

米特使「ロシアは時間稼ぎせず停戦を」、3国間協議へ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story