コラム

虐待写真は公開すべきだ

2009年06月02日(火)04時34分

 先週、私は大騒ぎになったイラクのアブグレイブ収容所の虐待写真に関する米軍のアントニオ・タグバ元少将の発言について書いた

 英デーリー・テレグラフ紙は5月27日、アブグレイブ収容所の実情を調査したタグバ元少将が「拷問や虐待、レイプ、あらゆる下品な行為」を撮影した複数の写真がアメリカ政府が公開を検討していた写真の中にあったと述べた、と報じた(バラク・オバマ政権は写真の公表を承認していたが、今から3週間前にその決断を翻した)。

 ブログの多くは型通り「控えめ」に反応した。ザ・アメリカン・プロスペクト誌のウェブサイトへのある投稿は、たとえそれが未成年者のレイプ現場であろうと、オバマはすべての写真を公開するべきだと書いた。

 私は2年以上も前に引退したタグバがなぜ、何の関係もないオバマ政権のために発言するのか疑問に思っていた。何千枚の写真の中から、ホワイトハウスが公開を検討している写真を知ることができたのはなぜか。それに、彼はなぜそんな物議をかもす発言をイギリスの新聞相手にしたのか。

■「レイプ写真は見ていない」

 結局、答えは簡単だった。タグバは5月29日、米サロン紙の記者マーク・ベンジャミンに「写真は裁判で係争中であり、私は見ていない」と語った。実際のところタグバは、性的虐待やむち打ちを写したあの有名なアブグレイブの写真について話していたのだ。

 それだけのことだった。別に新しい話ではない。

 しかし、これで虐待写真やビデオをめぐる重要な戦いが終わったわけではない。

 5月20日、リンゼー・グレアムとジョー・リーバーマンの両上院議員は米議会に拘束者写真記録保護法案を提出した。法案の狙いは、「01年9月11日以降にアメリカ国外の米軍の作戦によって逮捕、拘束された人たちの処遇の様子を01年9月11日から09年1月22日までの間に撮影した写真・ビデオ」を機密扱いにする点にある。

■すべての虐待が闇の中に消える

 そうなると、たとえ米国自由人権協会(ACLU)が情報公開法を使って請求しても、公表が強制できなくなる。さらに、国防長官はこの法律を5年ごとにつくり変えることができる。

 拘束者を写したすべての写真をひとくくりにして公表されないことを保障するのは危険だと思う。これはもはやアブグレイブの写真だけの問題ではない。

 今では私たちはアブグレイブで起きたことや、加害者がすでに罰を受けたということを知っている。しかしジョージ・W・ブッシュ政権は刑務所内で拘束者に虐待することを「成文化」した。虐待は組織的だったし、しかも法律で合法化されていた。そうした尋問の写真があるなら、せめて情報公開法の対象にはすべきだろう。

――アニー・ラウリー


Reprinted with permission from FP Passport ,2/6/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザの学校に空爆、火災で避難民が犠牲 小児病院にミ

ワールド

ウクライナ和平交渉、参加国の隔たり縮める必要=ロシ

ビジネス

英総合PMI、4月速報48.2 貿易戦争で50割れ

ビジネス

円債は償還多く残高減も「買い目線」、長期・超長期債
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 4
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story