コラム

レバノン選挙でオバマ効果?

2009年06月08日(月)11時25分

 レバノン国民会議選挙で親欧米の与党勢力が、親イランのイスラム教シーア派組織ヒズボラを含む野党勢力に勝利し、権力を維持することになった。ニュースサイト「ハフィントン・ポスト」の編集者は、この結果はオバマの6月4日の演説のおかげだと言いたいようで、こんな見出しを掲げた。

「オバマ効果? レバノンで親欧米の多数派がヒズボラに勝利宣言」

 せっかくの祝賀ムードを壊したくはないが、選挙結果にオバマが影響を与えたという証拠は今のところまったくない。ポール・セイラムがFPのウェブサイトで説明したように、ヒズボラは勝利して居心地の良い野党の座を手放すことを望んでいなかったようだ。その意図は、わずか11人の候補しか出さないことを含めて多くの事実からうかがい知ることができた。

 予想得票を下回ったのは、むしろヒズボラの連合パートナーであるキリスト教系「自由愛国運動(FPM)」のようだ。

 いずれにせよ、ハフィントンポストが掲載したAP通信の記事は「オバマの演説は選挙中に共鳴しなかった」と断定している。

 まだ安心はできない。これから組閣をめぐる醜い交渉が始まる。議席数だけでは計れない力を持つヒズボラは、「挙国一致」内閣の中で再び拒否権を要求する可能性が高い(せいぜい分裂国家レバノンに見合う程度の挙国一致だが)。新政権が発足するまで悩ましい交渉が何カ月も続くかもしれない。

 もちろんヒズボラ・FPM連合が勝利しなかったのは良いニュースだ。もし勝っていれば、醜い非難の応酬が起きていたかもしれないし、さらに与党連合(イスラム教スンニ派・ドルーズ派・キリスト教徒)がその結果を受け入れなかったら、もっとひどいことが起きていただろう。

 だが今回の選挙結果がオバマのおかげとはまだ言えないと思う。

──ブレイク・ハウンシェル

Reprinted with permission from FP Passport, 08/06/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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