コラム

スリランカ内戦終結の不穏な未来

2009年05月19日(火)07時59分

首都コロンボの市民

平和の到来 25年続いた内戦の終結に歓喜する首都コロンボの市民。だが少数派タミル人
の今後の扱いには不安が残る(5月18日) Buddhika Weerasinghe-Reuters
 

 スリランカ政府は、反政府勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」を制圧し内戦に終止符を打ったと発表したが、政治コラムニストのケビン・ドラムはブログでこのニュースに大きな疑問を投げかけている。


最大の難問は、四半世紀の激しい戦闘で10万人近くの犠牲者を出した内戦の後、多数派のシンハラ人が敗北した少数派のタミル人を寛大に扱えるかどうかだ。


 さらに別の疑問もある。多くの人が予想するようにタミル人過激派の残党が「ゲリラ活動」に回帰した場合、国外の亡命タミル人勢力はどの程度この闘争を支援し続けるのか。

 テロ対策関連のブログサイト「アブ・ムカワマ」では寄稿者カルロスがこの問題に触れているが、亡命タミル人のLTTEへの支援は強制されたものだとことさらに強調している。

 ロンドン在住のタミル人活動家ニルマラ・ラジャシンガムは当ブログ「PASSPORT」でこう書いている。


 タミル人亡命勢力は自らのナショナリズムによって孤立している。LTTEに取り込まれ、平和構築にはまったく貢献していない。内戦の惨禍が国内のタミル人に分離主義運動の再考を促した一方で、直接的に内戦の被害を被らなかったタミル人亡命者は分離主義を受け入れてしまった。


  別の言い方をすれば、例えスリランカ政府がタミル人居住地域の生活環境を向上させて、分離独立派を政治プロセスに取り込んだとしても、国外の亡命タミル人が分離独立運動の強硬派と繋がっている限り、うまくいかない可能性がある。

 最後に残る疑問は、LTTEの最後の抵抗の時期に、実際に何が起きたのか私たちがどれだけ知っているか、という点だ。内戦の最終段階において、信用できる情報を入手するのはとてつもなく困難だった。戦闘の報告や犠牲者数は、そのほとんどが当事者から発表されたものだった。

 スリランカ政府軍がジャーナリストを戦闘地帯から締め出したのは確かだが、世界のメディアはこの問題への対応を間違えたと私は感じている(例えば5月17日に掲載されたニューヨーク・タイムズの記事は、ニューデリー支局とバンコク支局の記者が書いたものだ)。

 新聞だけが悪いのではない。メディアの経営環境は悪化しているうえ、今回のニュースはパキスタンの情勢悪化やインドでの大規模な選挙と重なった。スリランカ紛争は残念ながら、南アジアの数多い紛争のうちの1つでしかない。

 民間シンクタンク「国際危機グループ」のアンドルー・ストローラインは4月21日付けのネット上のコラムで、スリランカ内戦終結のニュースは特派員不在の世界がどういうものか分かる好例だと指摘している。その世界は暗澹たるものだ。

 内戦の終結によって、スリランカには国際報道のわずかばかりの光も当たらなくなるだろう。同時に、国際機関や外国政府からの圧力も消える。つまり内戦の過去をどう位置付け、これ以上の流血を防ぐためにどうやって前進するかは、シンハラ人とタミル人の両者(そして亡命タミル人)の協力にすべてがかかっている。

 彼らはその試練に、自分たちで立ち向かわなければならない。

----ジョシュア・キーティング

Reprinted with permission from FP Passport, 19/05/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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