コラム

年寄り対決の都知事選

2014年02月12日(水)14時56分

今週のコラムニスト:レジス・アルノー
〔2月4日号掲載〕

 今年の2~3月に相前後して行われる東京都知事選とパリ市長選。だが候補者の顔触れは対照的だ。

 パリ市長選の有力候補2人は、どちらも切れ者で比較的若い世代の女性だ。社会党のアンヌ・イダルゴは54歳で、現職のパリ市第1助役。優雅でまじめで親しみやすい人物で、10年以上にわたりベルトラン・ドラノエ市長の下で働いてきたため、市政を知り尽くしている。

 対抗馬で国民運動連合(UMP)が推すナタリー・コシウスコモリゼはまだ40歳。34歳の時に閣外相となり、37歳でエコロジー・持続的開発相、38歳で当時のサルコジ大統領の広報となった華麗な経歴の持ち主だ。

 福島第一原発事故直後の2011年3月、当時エコロジー相だったコシウスコモリゼはサルコジと共に来日した。フランス大使館で行われたレセプションパーティーで、彼女を見た日本の政治記者は「あの若い美人はどなたですか?」と私に聞いた。「ああ、大臣ですよ」と答えると、彼は信じられないという様子だった。

 翌日、私はコシウスコモリゼが福島に向かうバスに同乗した。彼女は車内で、放射能に関する手短なレクチャーをしてくれたが、その出来たるや言葉を失うほど素晴らしかった。

 17年の大統領選への意欲も見せているが、その時点でも彼女はまだ44歳だ。イダルゴもコシウスコモリゼも、新世代のフランスの政治家と言っていいだろう。

 一方、東京都知事選で「新世代」に当たるのは、年齢的には旧世代の人々だ。真の変革をもたらすかもしれない候補といえば、76歳の細川護煕元首相。彼を応援する小泉純一郎も72歳で、同じく元首相だ。

 日本には若い世代のリーダーが不足している。ここでは反乱の担い手さえ旧世代だ。20年の東京五輪に向けた国立競技場建て直しの反対運動で先頭に立つのは85歳の建築家、槇文彦。安倍政権の特定秘密保護法案への反対運動でも年配者ばかり目立っていた。こうした動きを先導する若い世代の姿はあまり見られない。

■対決の構図に明るさを感じる

 リーダー不足の問題は、東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会の会長就任を森喜朗元首相(76)に「要請」しなければならなかったことからも見て取れる。彼はさまざまな資質を備えた人物ではあってもカリスマ性には欠けるし、首相在任中は舌禍続きだった。もっと若くて、五輪という国際イベントに向けて国を代表する役割にふさわしいリーダーはいないのか。

 話を都知事選に戻そう。候補者が年寄りばかりという問題はあるが、一方で私は2つの陣営の対決が起きるという単純な事実に明るさを感じる。

 東京で行われる選挙から、前向きな印象を受けることはあまりない。ミニーマウスよろしく白い手袋をはめた女性たちが大挙して車に乗り、いい大人に向かってまるで子供を相手にするかのように手を振る風景は、町全体が巨大なディズニーランドになったかのようだ。

 これはいかに日本の政治家が選挙をばかにし、有権者がしらけているかを示すものだ。だが今回は戦いがある。細川は自民党が支援する舛添要一、そして安倍晋三首相と真っ向から対立している。

 細川は、日本はかつてアジアに侵略戦争を仕掛けたという考え方に立ち、首相在任中には謝罪も行った。原発廃止論者で、東京五輪に対しても慎重な発言をしたものだ。一方の安倍は昨年末に中韓の反発をよそに靖国神社を参拝し、原子力発電所の再稼働を求め、五輪に関しては最も熱烈なファンと言っていい。

 こんなはっきりした対決の構図は、世界でもなかなか見られるものではない。そして、その勝負の行方は東京都民に委ねられている。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 自由取り戻すと

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story