コラム

桜を愛する東京人にあえて秋入学のススメ

2012年11月12日(月)09時00分

今週のコラムニスト:マイケル・プロンコ

〔11月7日号掲載〕

 秋に新学期が始まるたびに私は混乱する。学生たちの顔を見て「あれっ、知っている学生ばかりだぞ!」と驚く。アメリカでは秋が新学年のスタートだから、つい錯覚してしまうのだ。

 だから東京大学などが秋入学への移行を検討していると発表したときは、やっと東京のほうが私に合わせるんだと思った。これまでは私のほうが合わせなくてはいけないことばかりだったから!

 4月始まりになじめないのは東京では私だけらしい。母親は子供の入学式に付き添い、新入社員は新しいスーツでさっそうと歩く。会計年度が替わって会計士も大忙しだ。誰もが冬眠から覚めて巣穴から出てきたクマのように、白とピンクに咲き誇って冬を追い払う桜並木の美しさをむさぼる。

 東京の4月は新学年の始まりであると同時に、生命が始まる月でもある! 秋に移せるわけがないだろう?

 理屈から言えば、秋入学への移行は十分納得できる。秋入学にすれば日本人学生は海外に、外国人学生は日本に留学しやすく、日本の大学が世界の大学の暦に合わせやすくなる。交換留学を促進することは非常に重要で、秋入学に移行する理由としてはうなずける。

 しかし4月前半の心浮き立つ雰囲気を秋に移すとなると、そう簡単にはいかないだろう。忘年会シーズンの喧騒を8月に、正月の静けさを5月に移すようなもの。日付は簡単に変えられても、身に染み付いた習慣を変えるのは大変だ。

 スケジュールに限らず、東京では何かを変えることが難しい。何もかもが非常に密接に絡み合っているので、糸を1本引き抜くだけで全部が台無しになる。朝の電車が1本遅れるだけで交通網全体に影響が出るようなものだ。

 しかし実を言えば、大学の年間スケジュールは4月始まりの今でさえ少々危なっかしい。授業が始まったかと思うとすぐにゴールデンウイーク。しかも花粉症シーズン真っただ中でのスタートだ!
7月に入ると学生は暑さと湿気でぐったり。4年生は就職のことで頭がいっぱい。大学入試は家族ぐるみの大騒ぎ。こんなに邪魔ばかり入るのだから、9月始まりに変わったところで、ほとんどの学生は気付きもしないかもしれない。

 秋入学に変わった当初は違和感があっても、その先には新たな喜びや満足感が待っているだろう。アメリカでは4月に入ると、学生は(教師も)自由な時間と読みたい本と何もしないで過ごす暖かな日々を夢見るようになる。季節は違ってもニーズと気持ちは同じだ。

■桜に替わる新学期の代名詞

 詩人のT・S・エリオットは「4月は最も残酷な月だ」と言ったが、それは花がほころび始める季節になっても、私たち人間は冬への追憶と夏への欲望を抱き続けるという意味だ。追憶も欲望も厄介で時に残酷にもなり得るが、実のところ、それは一年中どの月でも同じだ。

 新学年のスタートが桜の咲く頃から落ち葉が散る頃に変わったら、東京らしさが薄れるだろうか。いや、一年中いつでも希望に満ちたスタートは切れる。例えば入試が終わってすぐに桜が咲き始めれば、少なくとも慰めや祝福になる。桜の花が持つ意味と私たちにもたらす喜びは、入学時期がいつになろうと色あせない。

 秋入学への移行が実現すれば、東京都の木であるイチョウと、東京では桜と同じくらいよく見掛けるカエデが、桜の役割を引き継ぐだろう。イチョウとカエデの葉が色づき始めるのは11月、ちょうど新学期の半ば頃だ。

 カエデの荘厳な赤と紫やイチョウの濃い黄金色は、学生たちのやる気をかき立てるだろう。東京のような大都市でも自然は示唆に富み、刺激に満ちている。といっても、自然からのメッセージを読み取って生活に組み込めるかどうかは東京人次第だけれど。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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