コラム

アピール下手の東京は再び五輪に素通りされる

2012年04月02日(月)09時00分

今週のコラムニスト:レジス・アルノー

〔3月28日号掲載〕

 日本は間もなくオリンピックの金メダルを手にするかもしれない。種目は「招致失敗」。88年(名古屋)、08年(大阪)、16年(東京)の夏季大会の開催地に立候補して落選した日本の代表として、東京が20年大会の招致失敗に向けて果敢に準備を進めている。 前回の招致活動では150億円(うち100億円は公金)が無に帰した。コカ・コーラの本社が唯一の自慢というアトランタが96年大会に選ばれ、東京のように素晴らしい都市がいつも素通りされるのだから驚きだ。

 アトランタにあって東京にないものは何か──政治的かつ国際的な招致戦略を熟知しているかどうか、だ。日本オリンピック委員会(JOC)のホームページは、今この時期に世界を意識していないことを何より物語っている。日本語版はカラフルで躍動的で情報満載だが、英語版は社交辞令で作ったにすぎない。

 東京の招致関連サイトは英語版とフランス語版もそれなりのものだが、マドリードのサイトに比べると見劣りする。国際的なアピールを常に意識することが、真の開かれた都市の証しだ。
オリンピックの招致活動とは、自国の国民を納得させることではない。相手は国際オリンピック委員会(IOC)の総会で投票する外国人の委員だ。それなのに、招致委員会は2月16日の惨憺たる記者会見で的外れなアピールをした。

 まず、日本人の65%が今回の招致に賛成しているという。印象的な数字だと言いたげな口ぶりだったが、むしろ印象的なのは、いかに多くの人が「賛成していない」かだ。 共同通信によれば20年大会に立候補している5都市のうち、市民の支持率は東京が最下位。トップはアゼルバイジャンの首都バクーの90%で、イスタンブールの87・1%、ドーハの82%、マドリードの75・3%と続く。

 それ以上に問題なのは、招致委員会がオリンピックの開催を、3・11の地震と津波を経験した日本の復興にとって重要だと強調していることだ。

■屈指のメガロポリスとして

 日本は昨年、大きな苦しみを経験した。しかし依然として世界第3位の経済を誇り、最も発展した国の1つだ。ライバルのトルコやスペインより困窮しているとでも言いたげな主張は無理がある。同情を引く作戦は、独裁政権や内戦、飢餓に苦しむ国の委員の心には響かないだろう。

 さらに、オリンピックの開催は、その国の発展の活力を世界に印象付ける機会となることが多い。だから韓国の平昌(ピョンチャン)が18年冬季大会の開催を勝ち取ったのだ(これで20年に東京が選ばれる可能性はほぼ消えた。IOCは基本的に同じ地域での連続開催を好まない)。

 64年に東京が選ばれたのも同じ理由だった。当時の日本は若いアスリートのように急成長していた。破滅的な戦後から20年足らずで最前線に復帰したのだ。64~80年に日本経済の規模は10倍以上に成長したが、あの勢いが12~20年に再現されることはなさそうだ。日本は発展の「好例」から「反例」に転じた。

 東京にも勝ち目は残っているかもしれないが、これまでよりはるかに効率的なPR作戦が必要となる。まず、ありのままの姿をアピールすること。規模と効率を同時に実現させた世界屈指のメガロポリスとしての東京だ。

 世界は目を見張るような変化の最中にあり、東京はその最前線にいる。08年以降は人類史上初めて、世界の人口の半分以上が都市部で暮らすようになった。30年までに都市人口は50億人近くまで膨れ上がるだろう。都市生活の質を維持することが今後の課題となる。 東京は巨大都市の中でも群を抜いている。きれいな水、きれいな空気、優秀な公共交通機関──。実に素晴らしい大都市なのだから。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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