コラム

歌舞伎町流「不眠」健康法

2009年11月09日(月)12時23分

今週のコラムニスト:李小牧

 実は今、来年5月に始まる上海万博の日本産業館で高級料亭をプロデュースする手伝いをしている。日本ではあまり注目されていない上海万博だが、現地ではそれなりに盛り上がり始めている。料亭を切り盛りする日本語に堪能な中国人スタッフを探すため、ついこの間も2泊3日の強行軍で帰国した。

 深夜3時まで、日本語のできる中国人ホステスのいる上海のお店で打ち合わせと称した「採用活動」をした後、翌朝7時に起きて車で5時間かかる南京に行き、里帰り中のわが妻、息子と再会。その日のうちに上海にとんぼ返りして再び打ち合わせ――と、自分で言うのも何だが、49歳にしてはかなりハードなスケジュールをこなしてきた。

 そのとき何年かぶりで会った中国人の友人の1人に「全然昔と変わらない。というより、前より若くなっていない?」と心底驚かれた。

 確かに歌舞伎町でもよく「49歳に見えない!」とうらやましがられる。美肌を保つスッポンスープ以外にも、「抗衰老(カンショアイラオ、中国語でアンチエイジングの意味)」の秘訣がある。「寝ないこと」だ。

■案内人に手帳が不要なわけ

 もちろんまったく睡眠時間を取らないわけではない。私は13歳でバレエ団に入団してからまとめて8時間寝るという生活をしたことがなく、睡眠時間はだいたい1日5時間。それも断続的だ。歌舞伎町で配っている名刺の携帯番号には24時間世界中から電話がかかってくるが、李小牧が電話に出ないということはない。

 どうしてろくに寝なくても健康を保てるのか。それは仕事で刺激を受けることのほうが、睡眠よりずっと脳と身体を活性化するからだ。

 私は歌舞伎町案内人だけでなく、レストラン経営者、作家、湖南野菜農家(笑)......と、さまざまな顔をもっている。最近は12月にマカオで初めて開かれる国際映画祭のコーディネーターまで引き受けた。過去にはそれこそバレエダンサー、記者、貿易会社員といった仕事もやってきた。

 私にとって、一つの仕事は単なる仕事でなく、別の仕事の息抜きでもある。レストランで接客をこなしたあと、作家として新宿の住人たちに取材するのは苦痛でもなんでもなく、むしろ喜びであり自分への「ご褒美」と考えている。

 ちなみに私は手帳というものをもったことがない。さまざまな仕事のスケジュールはすべて頭の中だけで管理している。約束をすっぽかすこともたまにはあるが(笑)、肝心なところで失敗したことはないつもりだ。手帳に頼らないほうが緊張感を保てて脳が活性化すると思う。

■頭も身体も活性化する「麻薬」

 要は好奇心たくましく臨機応変に生きる、ということだ。歌舞伎町で暮らして21年になるが、私のような生活をする日本人をあまり見たことがない。日本人は大きな計画を立てて、それを綿密に実行するのは得意だが、何か突発的なことが起きるととたんに対応できなくなる。

 私は自分の子どもたちに半ば冗談で「犯罪以外なら何でもやっていい!」と教えている。日本の20代の若者は、残念ながらいまだにファッションも生活文化もアイドル頼み。日本人、特に若い人はもっと自分のやりたいことをやってどんどん失敗すべきだと思う。それが個人だけでなく、国全体の活力にもつながっていく。

 李小牧も来年で50歳。しかし好奇心はいまだに20歳のつもりだ。ろくに寝ていないが、老眼を除けば(笑)中高年がかかるような病気は何一つしてない。若い女性だけでなく老若男女どんな人でも、新しい人と会えばそれが刺激になって頭も身体も元気になる。さしずめ人と会うこと、そして仕事は私にとって「麻薬」のようなものらしい。

 上海で会った友人は一向に老けない私のことを「お化け!」と呼んだ。確かにろくに寝ないところはお化けに似ているかもしれないが、せめて友愛ならぬ恋愛を説く「歌舞伎町の宇宙人」くらいにしておいてもらいたい(笑)。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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