コラム

日本のもう1つの「政権交代」

2009年09月15日(火)13時09分

今週のコラムニスト:コン・ヨンソク

 日本のみなさん、政権交代おめでとう!

 保守党同士の交代とはいえ、自らの手で「山を動かした」感想はどうだろう? 僕は周りの人に、政権交代が実現しなかったら、「日本を去る」とまで宣言していただけに、内心ホッとしている。有権者のみなさん、本当にありがとう!

 鳩山由紀夫代表は選挙演説で、「日本の歴史を塗り替える日がやってきました」と訴えたが、実際のところ民主党の圧勝は、日本だけでなく東アジアの歴史をも塗り替えるインパクトをもっている。

 現在の韓国は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)と金大中(キム・デジュン)という中道・リベラル派の元大統領が相次いで亡くなって追悼ムード一色。この韓国でも、両大統領の流れを汲む第一野党「民主党」が、アメリカに続いて日本の民主党の追い風にあやかろうとしている。その風の影響か、李明博大統領は中道派の鄭雲燦(チョン・ウンチャン)元ソウル大総長を国務総理(首相)に任命した。

 とはいえ、浮かれてばかりはいられない。日本を取り巻く現状は日本に、より大局的なもう一つの「政権交代」を準備する必要性を迫っている。それは中国(そしてインド)の台頭による、アジアの代表の座における政権交代だ。

 今さら中国の目覚しい躍進を、ことさら強調する必要もない。近年では米中による「G2時代」ということまで議論されている。中国が覇権主義に向かうのは絶対反対だが、かつて東アジア国際秩序の中心に中国が位置していたことは紛れもない歴史的事実だ。

■「栄光ある退場」に備えよ

 19世紀末、近代化をいち早く取り入れたルーキー日本が、中国というオールド・チャンピオンをKOし、その後100年にわたってアジアの盟主として君臨してきたが、その「栄光の時代」の終わりが始まっているのではないだろうか。中国だけでなく韓国やASEAN(東南アジア諸国連合)諸国も、帝国主義時代の以前には立派な文明と文化を持っていた。つまりこれは、時代が東アジアの「常態」に戻りつつある状態なのかもしれないのだ。

 100年もの間、アジアのチャンピオンの座に君臨し、数十億のアジア人の羨望と憧れの的であったと同時に嫉妬と憎悪の対象でもあった日本。だが今は、静かにその座を明け渡す準備をしなければならないのではないだろうか。

 客観的に状況を把握でき、自分が何者かを知り、冷静な判断が下せる人は、その変わり行く状況を違う方向に導くことも可能だ。今、日本外交に必要なのは、この厳しい現実のなかで、いかに影響力を保持しながら「光栄ある退場」の花道をつくるかだ。

 その意味で、鳩山代表が「美しい」、「とてつもない」など、わけのわからない形容詞や愛国を振りかざすのではなく、アメリカとの関係を相対化させ、中国や韓国などアジアとの関係をより緊密化し、東アジア共同体を目指すと言ったことは時機を得ている。新しい枠組みへ踏み出すことには抵抗も強いだろうが、優柔不断で決断を先延ばしした結果を最もよく知っているのは民主党のはずだ。

 そして日本のアジア外交の新たな基軸を考えるとき、真っ先に見えてくる存在がお隣の朝鮮半島だ。とりわけ韓国とは、類似した政治社会体制を持ち、同じく米中の間に挟まれ、ともに国土は狭く資源にも乏しいが世界に誇る人的資源と文化力をもっている。米中の影響力に対して、日韓ががっちりタッグを組めば存在感をアピールできるのではないだろか。17世紀、清の皇帝の前で朝鮮の王が跪いたソウルの南漢山城で、その思いを強くした。

■日米韓の民主党が生む新秩序

 民主党政権よ、もう一度、北朝鮮問題を踏まえてアジア外交を再構築してはどうか。次の韓国大統領戦でも、民主党勝利の可能性はある。そうすれば日米韓の「民主党連合」が、この地に新しい秩序をもたらすかもしれない。その結果、将来的に中国や北朝鮮に「民主党」が誕生すれば、鳩山由紀夫は「真の宇宙人」として歴史にその名を刻むことだろう。

 鳩山代表の祖父である鳩山一郎は、冷戦構造の下で日ソ国交回復を実現させた人だ。第1回アジア・アフリカ会議(バンドン会議)にも代表団を送り、アジアを重視した「自主外交」路線として位置づけられている。

 鳩山一郎は前任者の吉田茂に対する対抗心から「日ソ」にこだわったとされるが、「鳩山新総理」は麻生太郎を意識する必要はない。世界は日中の政権交代だけでなく、アメリカからヨーロッパ、西洋からアジア、国家から市民社会、ハード・パワーからソフト・パワー、文明から文化、開発からエコ、中央から地方など、主役のチェンジとパラダイムの転換が要される時代に生きている。このような大局的観点から、新政権は21世紀の世界システムにおける日本の役割と位置づけについて、真剣に悩み議論する必要がある。

 マスコミも「小沢ガールズ」、鳩山夫人、国会の控え室などの話よりも、あるいは酒井法子の話よりも、来るべきもう1つの政権交代について真摯に考えてほしいものだ。

プロフィール

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・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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