コラム

イタリアを笑えるだろうか

2010年11月23日(火)16時18分

 女性の股下から上を見上げてニンマリするイタリアのベルルスコーニ首相。本誌日本版11月24日号の大胆な表紙には笑ってしまいました。表紙のタイトルは、「イタリア男の本性」。

 いやあ、大胆不敵なデザインですね。イタリア大使館から抗議は来ないのだろうか。

 いやいや、イタリア人なら、こんなことでは抗議するわけはないだろう。おおらかなんだから。

 特集記事のひとつは「SEXと政治とイタリア男」。中身を見ると、イタリアのテレビは、夜も早い段階からポルノもどきの番組がいっぱいなんだそうです。

 でもねえ、大晦日の紅白歌合戦の裏で「野球拳」で負けた女性が下着を一枚一枚脱ぐという番組を流していた国もあるのですよ。イタリアのテレビはひどいよね、なんて他人事みたいに言えないではありませんか。

 特集記事は、イタリアの女性の社会進出が進んでいない現状を告発します。イタリアの女性の就労率はヨーロッパの中では低く、賃金格差もあって、指導的立場に立てる可能性が少ない。

 「真剣に仕事での成功を望む女性にとって、この国の職場の空気は冷淡、時には敵対的なものになっている」「働く女性の収入は男性より平均20%少なく、企業の管理職に女性が占める割合は7%にすぎない」

 さて、これはどこの国の現状を紹介したものでしょうか。

 「社会に出て働くイタリアの女性が家事に費やす時間は週に21時間で、ポーランドとスロベニアを除くヨーロッパのどの国よりも長い」と指摘した上で、イタリア女性のこんな発言を紹介しています。

 「私たちには、他国では常識になっている家事の分担や協力もない」

 やれ、やれ。これでは東洋の島国と同じではありませんか。

 「法律で禁じられていても、採用側は求職者に出産意思の有無を堂々と尋ねているし、産休中の負担を避けたい中小企業の多くは、出産適齢期にある女性の採用を避けたがる」
 
 「仕事をしながら育児をしている女性にとって、適当な保育施設を見つけることはあまりにも難しく、その過半数は子供の世話を祖母に頼んでいる」

 そのイタリアの出生率は1・3人。「働かなければならない女性は、仕事か子供かの選択を迫られる」

 「出生率の低さは重大な問題だ。イタリアは高齢化社会で、GDPの15%が、人口の22%を占める年金受給者への年金の支払いに使われている」

 表紙に笑って本文を読み進むうちに、笑いは凍りつきます。なんだ、イタリアと日本はどこが違うのか。プレイボーイの首相か、妻に頭が上がらない首相かの違いでしかないのではないか、と。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

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