コラム

孫正義氏は政商か革命家か

2011年07月21日(木)17時24分

 先日、霞ヶ関のOB数人と話した。話題はやはりエネルギー問題になり、特にソフトバンクの孫正義社長の「メガソーラー」に話題が集中した。彼の行動は、霞ヶ関の常識を越えているようで、いろいろな疑問が出た。

A 「彼は菅首相に取り入って、エネルギー政策を商売に利用する『政商』だよ。フィードインタリフ(固定価格買い取り)の買い取り価格を40円/kWhで20年固定するというのは、投資収益を確保しようということだろう。リスクなしでもうけを保証したら、訳のわからない会社が入ってきて電気代が上がり、スペインみたいにめちゃくちゃになる」。

B 「いやいや、そんなに甘くないよ。俺もエネ庁(資源エネルギー庁)に長くいたけど、太陽光発電でもうけたなんて話は聞いたことがない。役所が補助金をつぎこんで無理やり電力会社にやらせてたんだぜ。単価40円といっても年間1000万kWh程度だから、売り上げはわずか4億円。設備投資は50億円以上かかるから、回収に10年以上かかる」。

C 「俺は孫さんとはつきあいが長いが、最近は暴走気味だね。よくも悪くも、あれは商売じゃない。彼は坂本龍馬にあこがれて、昔から天下国家を論じるのが好きだ。よく「祖国のために尽くす」という。出自についての屈折した感情が強くて、『自分は日本人だ』といいたいんだと思うよ」。

A 「たしかにメガソーラーだけじゃ商売にならないけど、あれをきっかけに電力業界に食い込んで、あわよくば東電を買収しようというんじゃないか。今度の原子力損害賠償支援機構法では、東電は絶対つぶれないしくみになってるから、これも確実にもうかる。彼はあおぞら銀行のときのように逃げ足は速いので、もうけたらすぐ逃げると思うよ」。

C 「そこまで欲があれば、むしろおもしろい。メガソーラーだけじゃ駄目だということは、彼もすぐ気がつくだろう。PPS(特定規模電気事業者)になれば、太陽光だけじゃなくてガスタービンもできる。そうすれば、日本の電力業界のアンシャンレジーム(旧体制)をくつがえす革命家になれる」。

B 「しかし今の制度では、PPSは絶対にもうからない。託送料(電力会社に委託して電力を送る料金)が高いし、電気料金が家庭用を高くして産業用を安くしているので、大口電力だけではもうからないんだよ」。

C 「だから送電網の分離と小口の電力自由化が必要なんだが、孫さんはそれを言わないね」。

A 「本気で電力に参入する気がないからだよ。いま国会に出ている再生可能エネルギー法案は、地域独占の電力会社が電気代をサーチャージとして上乗せすることになってるんだから、料金を自由化したら利益が確保できなくなる。政商としてピンハネすることしか考えてないと思うよ」。

B 「いやメガソーラーだけではせいぜい数百億。政商としてもスケールが小さいし、ビジネスとしてもすぐ行き詰まる。俺はもっと大きなねらいがあると思うね」。

A 「それは?」

B 「ソフトバンクは韓国にデータセンターを移すだろ? 韓国の電気料金は日本の半分。つまりメガソーラーで日本の電気代を上げて他社のコストを圧迫する一方で、ソフトバンクは韓国の原発でつくった安い電気を使ってもうけようというわけだ。そして日本は原発を止めたら電力が足りなくなるので、日韓電力ケーブルだよ」。

C 「日韓電力ケーブル?」

B 「ドイツやデンマークが『脱原発』とかいっているのも、EU(欧州連合)の他の国から電力を買えるからだ。日本も韓国との海底ケーブルで、電力を輸入すればいいんだよ。釜山と福岡の間は200kmもない。九州電力は、原発なんかつくるより韓国から電力を買ったほうが安い。それで余った電力を他の地域に融通すればいいんだ。特に原発が止まって困ってる関西電力は助かるだろう」。

A 「それだと国内に原発をつくる代わりに、韓国につくるだけだね」。

B 「いいんじゃないの。今回の事故で、日本はしばらく原発のつくれない国になったが、その代わり外貨はある。韓国は原発は平気だが、外貨が足りない。日本が韓国に原発を輸出して電力を輸入するのは、両方にとって利益になるだろう」。

A 「そこでソフトバンクが東電を買収して、韓国から安い電力を輸入するわけか。さすが政商だね。これはNTTを買収するよりすごいディールだけど、日本の電力インフラは韓国に握られちゃうね」。

C 「それは孫さんにとってはいい話だろう。日韓の経済統合が進んで、元気のなくなった日本が、元気いっぱいの韓国からエネルギーをもらえるかもしれない。調整型の経営者ばかりの日本に、韓国のトップダウンの経営を輸入してほしい。やっぱり孫さんは政商じゃなくて、革命家だね」。

──もちろんこれは冗談だが、孫さんが日本を揺さぶるのは悪いことではない。彼の挑戦がもう少しツボにはまれば、霞ヶ関にも応援団はかなり出てくるだろう、と私は思った。居酒屋の夜は更けてゆくのだった。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

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