コラム

映画「パラサイト」に隠れている韓国のもう一つの「リアルさ」

2020年02月21日(金)16時15分

映画の中では、この歌を兄妹が暗記するために一緒に歌う。この歌の韓国におけるステータスを明確に描いたシーンでもある。韓国で育ってこのメロディーを知らない人、この歌詞を知らない人は居ないと断言してもいいほどだ。原曲もそうだが、韓国人なら誰でも知っているメロディーに単純な言葉の羅列というのは替え歌にはもってこいで、運動会や国際競技(とくに日韓戦)などでも「応援歌」として頻繁に使われている歌である。

'Jessica Jingle' of S. Korean dark comedy-thriller film 'Parasite' captivated fans in North America!


おもしろいのは映画のヒットによりこの歌のパロディーが世界的に広がっているということだ。ユーチューブでこの歌は『Jessica song』あるいは『Jessica Jingle』と呼ばれ数十万件の再生回数を記録している。外国人の中にはこの歌を自ら口ずさんでみたり、パロディーを作ったりする人も出てきたことだ。映画のアカデミー賞受賞、そして世界的なヒットによって、これまで想像もできなかったような「流行」が生まれたのだ。

もちろん、この歌が映画の中で使われているからといって、映画や制作陣を『反日』だと批判するのは的外れな揚げ足取りだ。監督であるポン・ジュノは映画『グエムル-漢江の怪物』などを反米的要素の含まれた映画を作成したことで反米監督だという批判を受けたことはあるが、これまでの彼の言動において反日的なものは見当たらない。むしろ日本の漫画や映画に敬意を示してきた監督である。

つまり映画の中でこの歌が使われたことは、この歌の韓国における地位、国民の中にどれだけ当たり前に溶け込んでいるかということをリアルに描いていると評価すべきだ。監督が意図したものであったとしても、そうでなかったとしても、ともすれば見逃してしまうかもしれないような短い場面の中にも韓国社会の現状があまりにもリアルに、そのまま表現されているのだ。

プロフィール

崔碩栄(チェ・ソギョン)

1972年韓国ソウル生まれソウル育ち。1999年渡日。関東の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。日韓関係について寄稿、著述活動中。著書に『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館新書)『韓国人が書いた 韓国が「反日国家」である本当の理由』(彩図社刊)等がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国航空会社2社、エアバス機購入計画発表 約82億

ワールド

コロンビア、26年最低賃金を約23%引き上げ イン

ワールド

アルゼンチン大統領、来年4月か5月に英国訪問

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃訓練開始 演習2日目
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story