コラム

ノーベル化学賞の北川進氏、生理学・医学賞の坂口志文氏...その研究成果と科学的意義、一般社会にとっての恩恵とは?

2025年12月12日(金)18時45分
北川進・京都大学特別教授、坂口志文・大阪大学特別栄誉教授

左から北川進・京都大学特別教授、坂口志文・大阪大学特別栄誉教授 From Left:Kyoto University via Sipa USA via Reuters Connect, Frank Rumpenhorst/dpa via Reuters Connect

<坂口氏がその概念を確立し、免疫の定説を覆した「末梢免疫寛容」とは? 北川氏らの開発した「金属有機構造体(MOF)」は、社会でどのように活用されることが期待されているのか?>

2025年のノーベル賞の授賞式が10日(日本時間11日未明)、スウェーデンの首都ストックホルムで開かれました。化学賞を受賞した北川進・京都大学特別教授と生理学・医学賞の坂口志文・大阪大学特別栄誉教授は、スウェーデンのカール16世グスタフ国王からメダルと賞状を受け取りました。

一夜明けた11日、同地で記者会見に臨んだ北川氏は「メダルを落とさないか心配していました。1人ずつメダルを受けたんですが、やはりその時にはノーベル賞をもらったんだなという実感が湧きました」、坂口氏は「今回の受賞が(研究に対する)社会的関心や理解というものを深める形になるんだろうと思います」と語りました。


ノーベル賞は毎年10月初旬に約1週間かけて6部門(物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済学)が発表され、賞の創設者であるアルフレッド・ノーベル(1833-1896)の命日である12月10日に授賞式が行われます。

とくにノーベル賞6部門のうち物理学賞、化学賞、生理学・医学賞は「自然科学3賞」と呼ばれ、「世界最高峰の科学賞」として注目されます。今年は10月6日に生理学・医学賞が発表されて坂口氏が受賞すると、2日後の8日の化学賞の発表で北川氏の名が告げられました。

今回の坂口氏と北川氏の受賞を含めて、日本人のノーベル賞受賞者は31名と1団体となりました(※日本出身で外国籍を取得した者を含む)。うち、自然科学での受賞は、物理学賞が12名(外国籍は3名)、化学賞が9名、生理学・医学賞が6名の、計27名です。

改めて、坂口氏、北川氏の研究成果と科学的意義、社会実装の可能性について概観しましょう。

「過剰防衛」が自己免疫疾患を引き起こす?

2025年ノーベル生理学・医学賞は、坂口氏とメアリー・エリザベス・ブランコウ(米・システム生物学研究所)氏、フレッド・ラムズデル(米ソノマ・バイオセラピューティクス)氏の計3名に与えられました。選考したカロリンスカ研究所のノーベル委員会は、受賞理由を「末梢性免疫寛容に関する発見("for their discoveries concerning peripheral immune tolerance")」としています。

私たちの周りには多くの細菌やウイルスが存在し、しばしば体内に侵入します。けれど、ほとんどの場合は症状を起こすことがありません。これは私たちの体には「免疫系」が備わっているからです。

免疫系とは、ウイルスや細菌などを自分の細胞とは違う「異物」として認識して、攻撃して取り除くことで体を守る仕組みです。一方、免疫では「自己を攻撃しない」ことも重要です。たとえば1型糖尿病や関節リウマチなどの自己免疫疾患は、本来攻撃してはいけない自分自身の細胞を誤って攻撃してしまうという、いわば「免疫系の過剰防衛」が原因と考えられています。つまり、免疫系の攻撃には絶妙なバランスが要求されます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国の対アフリカ融資、返済額が新規融資上回る

ビジネス

基調インフレ指標、12月は1年ぶりそろって2%割れ

ワールド

米政権、ミネソタ州の国境警備隊指揮官を更迭 民主党

ワールド

韓国産業相が近く訪米、ラトニック商務長官と会談へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに...宇宙船で一体何が?
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 7
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 10
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story