コラム

「腸は第2の脳」説に有力な証拠? 「ウンチする・しない」が認知効率に影響を与えていることが明らかに

2025年04月11日(金)14時00分
排便

(写真はイメージです) fongbeerredhot - Shutterstock

<認知能力を競技でフルに使うトライアスロン選手を被験者とした台北市立大学の実験で、排便の有無と認知能力の関係について驚くべき結果が導き出された。研究チームはそのメカニズムをどこまで明らかにできたのか。パフォーマンスに差が出るのは「我慢しているとそわそわするから」以外にも理由が?>

腸は、食物の消化・吸収だけでなく、免疫機能やホルモンの分泌など全身に関わる重要な働きも担っていることが近年の研究で明らかになってきました。さらに脳に次ぐ多くの神経が集まっている器官であり、うつ病や認知症といった「脳の健康」とも密接な関わりを持つことも分かってきており、「第2の脳」という別名も知られてきています。

とはいえ、私たちが日常生活の中で最も腸を意識するポイントは、今でも「毎日の排便が快調かどうか」でしょう。便秘や下痢のせいで勉強や仕事に集中できない経験は誰でもありますし、腸内環境を整える「腸活」という言葉はすっかり市民権を得ています。

「快便でパフォーマンスが上がる」のは、お腹が軽くなってスッキリするからでしょうか。台湾・台北市立大学のスポーツ科学研究者らは、「ウンチをする・しないが脳の認知能力に影響するのではないか」と考え、競技中に高い認知能力を必要とするトライアスロン選手を対象に調査をしました。

すると、アスリートたちの認知能力は排便後に有意に向上し、特に市販の便秘薬にも含まれる酸化マグネシウムを服用して便通をうながすと顕著な効果あることが分かりました。研究の詳細は、中国体育科学学会が発行する専門誌「Sports Medicine and Health Science」の2025年3月号に掲載されました。

排便には脳機能を活性化する仕組みがあるのでしょうか。研究者らはそのメカニズムをどこまで明らかにできたのでしょうか。概観してみましょう。

なぜトライアスロン選手なのか

トライアスロンは、スイム(水泳)・バイク(自転車ロードレース)・ラン(長距離走)の順に3種の競技を連続して行う耐久スポーツです。個々の競技は古くから行われてきましたが、トライアスロン自体は初めて大会が行われたのが1974年という比較的新しいスポーツです。2000年のシドニーオリンピックでオリンピックの正式種目となり、日本でもよく知られるようになりました。

スイム・バイク・ランの距離の組み合わせには何種類かありますが、オリンピックに採用されている「スタンダード・ディスタンス」と呼ばれる長さは、スイム1.5キロ、バイク40キロ、ラン10キロで、合計51.5キロを競います。

24年パリ五輪での優勝記録は男子1時間43分33秒、女子1時間54分55秒ですから、およそ2時間の間、脳をフル回転させて状況を読んだりライバルと駆け引きしたりするハードな競技です。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドネシア中銀、追加利下げ余地ある=総裁

ビジネス

大・中規模企業の借り入れ需要改善幅、3年ぶり大きさ

ビジネス

NTT、4ー9月期の営業収益が過去最高更新 法人ビ

ビジネス

仏トタルエナジーズCEO、中国需要減速でも原油価格
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story