コラム

性犯罪や浮気の証拠に? セックスを通じて、お互いが持つ「独自の微生物」が交換されていることが判明

2025年02月21日(金)20時20分

前提として、男女の性器官微生物を比べると、男性性器は空気にさらされているため皮膚の細菌叢に似た好気性細菌が多く、女性性器は体内にあるため嫌気性細菌であるという特徴があります。

実験に参加したのは20 歳から30 歳の一夫一婦制の異性愛カップル12組です。参加者には実験前の少なくとも2日間(最長2週間)性行為を控えてもらい、実験開始時に性器を綿棒で拭いて、ベースラインとなる「自分の性器官微生物」のサンプルを採取しました。その後、性行為をしてもらい、事後の性器官微生物のサンプルを採取して比較しました。

コンドームを使用したカップル間でも移行を確認

RNAの遺伝子配列を使用して、存在する細菌株を特定し、各参加者の微生物叢を検証した結果、性行為前後ではすべての参加者で微生物の多様性が顕著に変化していました。詳しく調べてみると、事前のサンプルでは片方のパートナーにのみ検出されていた性器官微生物が、事後のサンプルではもう片方のパートナーでも見つかりました。つまり、性行為によって、カップル間で移行したことが示唆されました。

さらに驚くべきことに、コンドームを使用した3カップルでも性器官微生物の移行は見られました。主に男性側で事後の微生物の多様性が見られたため、研究者チームは「性行為中にコンドームで完全に覆われていなかった陰茎の幹の根元に女性側の細菌が捕捉され、女性から男性への伝播が可能になった」と考察しています。

一般に、コンドームを使用するとDNAの検出は難しいとされており、挿入の有無の証明が困難なケースがあります。本研究は、微生物という新たなツールを分析することで、性犯罪の証拠やより詳しい状況を明らかにできる可能性を示唆しています

また、男性の割礼状況、陰毛の有無、オーラルセックスの有無、潤滑剤の使用なども確認しましたが、性器官微生物の移行による多様性に関して有意な影響を与えない、つまりいずれの場合でも性行為によってパートナー間で性器官微生物の受け渡しがありました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ4月石油輸出、9カ月ぶり低水準 シェブロ

ワールド

米国の対中貿易制限リストに間違い散見、人員不足で確

ワールド

ケネディ米厚生長官、ワクチン巡り誤解招く発言繰り返

ビジネス

欧州不動産販売、第1四半期11%減 トランプ関税影
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story