コラム

性犯罪や浮気の証拠に? セックスを通じて、お互いが持つ「独自の微生物」が交換されていることが判明

2025年02月21日(金)20時20分

WHO(世界保健機関)は、世界で女性の約3人に1人がパートナーあるいはパートナー以外の者による性的暴力を受けていると推定しています。もちろん、あらゆる性別(生物学的あるいは性自認によるもの)で性的暴行を受ける可能性がありますが、これまでの先行研究では女性のリスクが著しく高いことを示し続けてきました。

けれど、性犯罪の証拠は残りにくい性質があります。密室や人目につかないところで行われることが多く目撃情報が少ないことや、被害者が相談しづらかったり、病院や警察に向かうのに躊躇する時間があったり、思い出したくなく証拠になりそうな物品をいち早く処分してしまったりすることなどが理由と言います。

DNA捜査の代替手段になる可能性を検証

推理小説や刑事ドラマのストーリーでは、性的暴行の女性被害者の体内に残された加害者の体液のDNA鑑定が犯人同定の決め手となるシーンがよく見られます。けれど実際は、女性の体内から男性のDNAを回収し、女性本人のDNAから適切に分離することが困難な場合も少なくありません。

たとえば、犯行から48時間経過後に膣内から採取されたサンプルは、分離して分析できる精子が含まれている可能性は低いと言います。そこまで時間が経っていなくても、サンプル中には女性の「自己」DNAが圧倒的に多かったり、男性特有のY染色体をターゲットとして分析しても常染色体と比べてデータベースが小さかったりで、犯人特定は難しいことがあります。

そこで本研究の研究者らは、「個人ごとに構成に特徴がある性器官微生物は、性行為によって一部が相手に移動し、一定期間体内に残って特定の人との性行為の証拠となるのではないか」と考え、性犯罪におけるDNA捜査の代替手段になる可能性を検証しました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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