コラム

コロナワクチンと同じmRNA技術を用いたインフルエンザワクチンが開発される

2022年12月06日(火)11時20分

日本における毎年のインフルエンザワクチンの製造は、以下のようなステップを踏みます。

Ⅰ. 毎年2月頃にWHO(世界保健機関)よりインフルエンザワクチン推奨株が発表されます。近年のインフルエンザワクチンは4価(4種類のウイルスに対応)なので、A型H1N1、A型H3N2、B型ビクトリア系統、B型山形系統から選ばれます。今年は前年の推奨株から4種中2種(H3N2とビクトリア系統)の変更がありました。

Ⅱ. 国内のワクチン製造メーカーで、1~2カ月かけて、増殖性などの製造効率を確認します。その後、WHOの推奨と製造効率の両方を踏まえて、国立感染症研究所で「今年の国内のインフルエンザワクチンにどの4種を選ぶか」を検討し、1種ごとに複数候補を順位付けします。

Ⅲ. 感染研の挙げた候補について、厚生科学審議会の季節性インフルエンザワクチンの製造株について検討する小委員会(インフル株小委員会)で議論し、1種に1つの製造株を選定します。

22-23年シーズンはすべて第一候補が選ばれ、H1N1がA/ビクトリア/1/2020(IVR-217)、H3N2がA/ダーウィン/9/2021(SAN-010)、ビクトリア系統がB/オーストリア/1359417/2021(BVR-26)、山形系統がB/プーケット/3073/2013となりました。

Ⅳ. 選定に基づいて国内メーカーで製造し、9月下旬から販売されます。医療機関では10月から接種が可能となります。

現在、日本で接種できるワクチンは、①生ワクチン、②不活化ワクチンとトキソイド、③mRNAワクチンとウイルスベクターワクチンの3グループに分けることができます。

生ワクチンは、生きているウイルスや細菌の病原性を弱めたものです。ウイルスや細菌が人体で増殖するので、接種後1~3週間にその病気の症状が軽く現れることがあります。BCGや麻疹(はしか)のワクチンに使われていますが、免疫不全の患者や妊婦には禁忌です。

不活化ワクチンは、病原体をホルマリンや紫外線などで処理をして感染力をなくしたものを原材料にしています。人体で増殖することがないので、1回の接種だけでは必要な免疫を獲得できなかったり、維持するためには数回の接種が必要となったりします。インフルエンザや日本脳炎、武田薬品工業株式会社の新型コロナワクチン(ノババックス)などが当てはまります。

トキソイドは病原体となる細菌が作る毒素だけを取り出し、無毒化して免疫原性だけを残したもので、破傷風やジフテリアなどに用いられる不活化ワクチンの一種です。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベラルーシ、平和賞受賞者や邦人ら123人釈放 米が

ワールド

アングル:ブラジルのコーヒー農家、気候変動でロブス

ワールド

アングル:ファッション業界に巣食う中国犯罪組織が抗

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story