コラム

面白研究に下ネタ 科学の裾野を広げる「イグ・ノーベル賞」の奥深さ

2021年09月28日(火)11時30分

イグ・ノーベル賞には「下ネタ枠」があると信じられているほど、性や排泄にまつわる研究は頻繁に受賞します。

昨年は「様々な国の国民所得の格差とキスの頻度との関係を定量化しようとしたこと」に経済賞が与えられ、「ヒトの凍った大便から製造したナイフは機能的ではないと証明したこと」に材料工学賞が与えられました。今年は「セックスでオルガズムに達した後は、薬を使ったときと同じくらいに鼻づまりが改善されることを解明した」研究が医学賞を受賞しました。

イグ・ノーベル賞の公式ホームページは、賞の目的を「奇妙なものを讃え、想像力の豊かさに敬意を表し、科学、医療、技術への関心を高めること」と説明しています。誰もが身近に感じる「下ネタ」がテーマになることで、私たちは科学により興味を持ち、科学は専門家だけのものではないことを実感します。さらに、奇妙な疑問を真剣に研究して成果を出す科学者は、私たちに敬意と親しみを感じさせます。

本家のノーベル賞は「人類の発展に最も貢献した研究」に賞を与え、"裏"ノーベル賞であるイグ・ノーベル賞は「身近で奇妙な研究」に賞を与えます。けれど、「科学者の想像力の豊かさに敬意を表する」「一般の人の科学、医療、技術への関心を高める」ことは、本家のノーベル賞もイグ・ノーベル賞も同じなのです。

◇ ◇ ◇

現在、日本では3年ぶりに「イグ・ノーベル賞の世界展」(11月3日まで、福岡市科学館)が開かれています。近くにお住まいで、本コラムでこの賞のことが気になった方は、足を運んでみてはいかがでしょうか。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

テスラ、第2四半期納車台数は再び減少の見通し 競争

ビジネス

ユーロ圏製造業PMI、6月改定49.5に上昇 受注

ビジネス

訂正-独製造業PMI、6月49に改善 新規受注が好

ビジネス

英労働市場は軟化、インフレへの影響が焦点─中銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story