コラム

2023年秋、AI業界勢力図② Metaがオープンソースで大暴れ

2023年10月18日(水)18時40分

Metaがライバルの差別化戦略を無効に

そんな中、この対立構造を狂わせる新たなプレーヤーが登場した。Meta(Facebook)である。Metaが自社開発の言語モデルLlaMA2を、一般企業も一定限度まで無料で使えるオープンソースのモデルとしてリリースしたのだ。

なぜMetaはオープンソースとして言語モデルをリリースしたのだろうか。1つには、Metaがクラウド事業を持っていないからという理由が考えられる。クラウド事業を持っていないので、自社開発のAIモデルで一般企業を自社クラウドに呼び込む必要がないからだ。

LlaMA2が無料になったことで、 一般企業がMicrosoftのOpenAIのモデルや GoogleのPaLM2から、MetaのLlaMA2に流れ始めている。MetaはLlaMA2で儲けようともしておらず、ただ単にMicrosoftや Googleに嫌がらせしているようにも見える。

しかしMetaにはMetaの思惑がある。実は優秀な研究者の中には、オープンソースの支持者が多い。AIは人類全体にとって非常に有益な技術なので少数の企業がAIを独占するのは好ましくない。そう考える研究者が多いのだ。Metaがオープンソースの動きを牽引していることで、優秀な研究者がMetaに集まってきている。これがMetaにとって大きなメリットの1つだ。

もう一つ、オープンソースにすることでAI業界への圧倒的な影響力を手にできるかもしれないというメリットがある。事実、MetaのCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏は、LlaMA2をオープンソースにすることで、LlaMA2を AI産業のインフラ的存在に育て上げたいとYouTubeにアップされた動画インタビューの中で話している。

基本技術を無料で提供することで、大きな影響力を手にした企業の前例がある。Googleが開発したスマートフォンの基本ソフトであるAndroidは、オープンソースのソフトだ。多くのスマホメーカーがAndroidを搭載したスマホを開発して販売しているが、GoogleはAndroidを提供しても、スマホメーカーから一円ももらっていない。

しかし無料で提供することでAndroidの市場シェアが拡大する。多くの人がAndroidを使えば、そこに搭載されているGoogle検索を利用することになる。Google検索には広告が表示され、その広告代金はGoolgeの収益になる。オープンソースソフトは直接的には収入源にはならないが、回り回って多くの収益をGoogleにもたらしている。ザッカーバーグ氏は同様の結果を期待しているわけだ。同氏のより具体的な戦略に関しては、アプリレイヤーの記事の中で詳しく解説したい。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、方向感欠く取引 来週の日銀
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story