コラム

AI時代到来「それでも仕事はなくならない」...んなわけねーだろ

2016年05月13日(金)16時00分

AIと雇用を奪い合うのは専門的な仕事や創造的な仕事も同じ vladru-iStock.

「AIやロボットが人間の仕事を奪うようになる」という話をすると、「今ある仕事がなくなるだけ。代わりに別の仕事が登場するはず」と反論する人がいる。

 江戸時代の駕籠かきの仕事がなくなってもタクシーの運転手という仕事が登場した。古いテクノロジーの仕事がなくなっても、新しいテクノロジーの仕事が登場する。今まではそうだったし、今後もそうに違いない。そういう意見だ。

 しかし21世紀以降は、これまでの世紀とは大きく異る。AIは少なくとも特定の領域においては、人間の知能をはるかに凌駕するようになる。人間がするよりもAIのほうがうまくできる仕事の領域がどんどん拡大していく。

【参考記事】2020年米大統領選には人工知能が出馬する?

 もしAIがあらゆる能力において人間を超えるようになるのであれば、今ある仕事の代わりに登場した仕事でさえ、いずれAIが取って代わるようになる。AIの能力があらゆる領域において人間を凌駕するのであれば、人間に仕事が残るわけはない。当たり前の話だ。

AI研究者は「分からない」

 問題は、AIがあらゆる能力において人間を超えるのかどうか、だ。

 わたしは去年1年間で20人以上の日米の人工知能のトップレベルの研究者を取材する機会に恵まれた。スタンフォード大学AI研究所の所長も取材したし、機械学習の父と呼ばれるカーネギーメロン大学Tom Mitchel教授にもお話を聞いた。

 トップレベルの研究者の意見は同じだった。「AIの発達はまだ初期段階過ぎて、将来人間の頭脳を超えるかどうか、現時点では予測できない」ということだった。

 何よりも人間の脳のことがまだほとんど分かっていない。意識とは何か。心とは何か。だれもが納得する定義さえない状態。AIと比較対象の人間の脳のことがまったく分かっていないのに、それを超えるかどうかの議論が成立するわけがない。

 つまり「仕事が消滅するかどうか」の議論は実は、素人の憶測の域を出ない、という点をまず押さえておきたい。

 なのでいろいろな意見がある。だが急速な技術革新は一部の憶測が甘いことを、早くも示し始めている。

会計士の新規雇用4年で半減

 AIが仕事を奪っていくという話をすると、ほとんどの人が「少なくとも自分がやってる今の仕事がなくなることはない」という反応を示す。客観的な判断の場合もあるだろうが、恐れをベースにした希望的観測の場合も多い。

 そういう意見が希望的観測に過ぎないことを示す事例が、少しずつ出始めている。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

東京ガス、25年3月期は減益予想 純利益は半減に 

ワールド

「全インドネシア人のため闘う」、プラボウォ次期大統

ビジネス

中国市場、顧客需要などに対応できなければ地位維持は

ビジネス

IMF借款、上乗せ金利が中低所得国に重圧 債務危機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story