コラム

なぜ台湾・金門島周辺で中国「漁民」の転覆事故が続くのか? 歴史で読み解く「金門・日本有事」

2024年03月16日(土)12時11分

偽物の「漁民」と「水鬼」

「時代は変わった」と、習近平主席は過去の中国よりも現在の方がはるかに強いと確信しているらしい。2月14日、金門島海域に中国の「漁船」が侵入し、台湾の海上警察である海巡署の警備艇の取り締まりから逃げようとして転覆し、「漁民」2人が死亡。正直な中国のSNSでは一時、2人は「漁民」ではなく「愛国青年」だったと暴露していたが、瞬時に削除された。3月14日朝にも同じような衝突が起こり、また中国の「漁民」2人が溺死している。泳げない「漁民」がこんなにも多く海に登場してくる現象はどう見ても不自然である。

私は2019年冬に金門島に駐屯していた元将兵たちと共に現地入りし、数日間過ごし、各地を回った。地元の有力者らによると、金門と中国の漁民が対立し合うことはまずないという。互いに親戚同士であり、出自と血筋を重視する古い伝統も維持されているので、平穏な付き合いをしているそうである。

ただし軍隊は別で、金門島とアモイ方面に駐屯している兵士はすべて現地人ではなく、遠い地域からの者ばかりである。彼らは深夜に海を渡って歩哨を殺害し、耳か鼻を切り落として持ち帰って「軍功」を建てる。こうした「勇敢」な兵士は「水鬼」と呼ばれ、歩哨に立つ青年が一番恐れる存在だった。ここ最近、「水鬼」は目立たなくなり、代わりに挑発する「漁民」が出現したようである。「わが国の善良なる漁民が殺害された」と、国内の好戦的なナショナリズムが醸成されれば、習近平の人民解放軍は金門島に雪崩れ込むだろう。吉星文連隊長が生きていたら、盧溝橋事件を思い出すに違いない。

金門は風の強い島だ。季節風の猛威や悪魔の邪視から漁師や島民を守ってくれる聖なる存在は獅子で、地元では「風獅子」「風獅爺」と呼んでいる。私の推察だが、この風獅子は沖縄のシーサー(獅子)ともルーツを同じくしているのではないか。そういう意味で、金門は文化的にも古くから日本列島との共通点を有している。金門有事は台湾有事で、同様に日本有事でもある

ニューズウィーク日本版 トランプの大誤算
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年4月14号(4月7日発売)は「トランプの大誤算」特集。国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中経済関係は安定、来月の首脳会談で維持へ=UST

ワールド

米イラン協議、パキスタンの仲介正念場に サウジへの

ビジネス

短期インフレ期待上昇、ガソリン価格伸び見通し4年ぶ

ワールド

トランプ氏「今夜文明滅びる恐れ」、イラン交渉期限迫
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 4
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 5
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 6
    【後編】BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音…
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    5日間の寝たきりで髪が...ICUに入院した女性を襲っ…
  • 9
    「人間の本性」を見た裁判官が語った、自らの「毒親…
  • 10
    スパイス企業の新戦略...エスビー食品が挑む「食のア…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story