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ベトナムと日本人

ヨシヒロミウラ|ベトナム

ベトナムにおける沖縄料理の可能性 ――行政連携で拓く「南の日本」ブランド戦略と、「語れる物語」を持つ食の力

■ 和牛の次に来るものは何か

ベトナムで日本食はすでに定着している。寿司、ラーメン、焼肉。とりわけ近年、和牛は「日本品質」の象徴として売り上げを伸ばしている。
では、その次は何か。
私は沖縄料理に大きな可能性を感じている。それは単に味の問題ではない。沖縄は「語れる物語」を持つ地域だからだ。

■ 琉球王国という歴史資産

沖縄はかつて琉球王国という独立国家だった。中国やシャム(現在のタイ)、東南アジア諸国と交易を重ねた海洋国家である。その歴史は料理と酒に刻まれている。

泡盛は、王府の管理下で造られ、首里城で外交儀礼の酒として供された。冊封使を迎えた時にもてなした「王国の酒」である。

販売現場でこう語れる。「これは琉球王国時代、王が外交の場で外国の客人に出した酒です」「東南アジアとの交易から生まれた酒です」

ベトナムもまた中国や周辺諸国との外交史を持つ国だ。だからこの物語は響くのだ。

■ 料理そのものが交易の証

ラフテーは中国宮廷料理の影響を受け発展した豚の角煮料理だ。泡盛と黒糖で煮込むその味は、交易文化の産物である。
ゴーヤチャンプルーの「チャンプルー」は「混ぜる」という意味。豆腐文化、豚文化、島野菜文化が交差した象徴的料理だ。沖縄料理は、日本本土の料理とは異なる。むしろアジアの海洋史の記憶を残す料理なのである。

■ 行政連携が持つ意味

ここで重要になるのが行政との連携だ。

沖縄県は観光、酒類輸出、農産物プロモーションにおいて明確な地域戦略を持つ。レストラン単独では弱いブランドも、県の公式ストーリーと連動すれば強くなる。

・首里城
・琉球王国の交易史
・泡盛の古酒文化
・長寿県というイメージ

これらをパッケージ化し、沖縄料理店で試飲会や文化イベントと組み合わせる。店舗を単なる飲食店ではなく「琉球文化発信拠点」にするのである。

■ ベトナム市場との親和性

沖縄料理は、実はベトナムと相性が良い。両者とも豚肉文化を持ち、蒸留酒文化を持ち、家族中心の食卓文化を持つ。気候も近い。さらに歴史的に中国文化の影響を受けつつ、独自化してきた点でも似ている。

沖縄は「アジア回帰する日本」の象徴であり、ベトナムにとっては理解しやすい日本像なのである。

■ 売れるのは「味」と「意味」

ベトナム市場で成功する日本食は、味だけでは足りない。和牛が売れるのは、美味しさに加えて「日本品質」という意味を背負っているからだ。

沖縄料理も同じだ。

泡盛は王国の外交酒。
ラフテーは宮廷料理の記憶。
チャンプルーは混ざり合う文化の象徴。

「語れる物語」を持つ食は強い。

■ 南の日本が拓く新しい文化経済圏

沖縄は日本の周縁ではない。むしろ日本とアジアを結ぶ接点を最も濃く残す地域である。行政と民間が連携し、歴史と物語を武器にすれば、沖縄料理は単なる飲食ビジネスを超える。それは、日本とベトナムを食で再接続する試みであり、新しい文化経済圏の構築である。

和牛が「日本の中心」を象徴するなら、沖縄は「日本の柔らかさ」を象徴する。

次にベトナムで広がる日本食は、東京の最先端ではなく、琉球王国の記憶の中にあるかもしれない。

▪️本記事の執筆者・ヨシヒロミウラは、
ベトナムおよび東南アジアを軸に、社会・経済・文化の変化についての考察を
個人サイト yoshihiromiura.comにて継続的に発信しています。

 

Profile

著者プロフィール
ヨシヒロミウラ

北海道出身。ベトナム在住。武蔵大学経済学部経営学科卒業(マーケティング)。日本とベトナムを行き来する食、教育、人材等のビジネスの現場に関わりながら、現在進行形のベトナム社会を主なフィールドとし、アジア都市の経済・制度・文化の相互作用を観察し、思考、日本語で記録している。
個人ブログ:yoshihiromiura.com
X:@ihiro_x

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