
ベトナムと日本人
小さな物語が増殖する国 ― ベトナムのマンガ文化はどこへ向かうのか
ベトナムのマンガ文化は、ここ数年で明らかに変わり始めている。
それは「大ヒット作品が増えた」という変化ではない。むしろ逆だ。ベトナムで産まれた小さな物語が、小さなコミュニティの中で増殖している。その中心にあるのが、インディーコミックとZINE文化である。そしてもう一つ、見逃せない存在がある。スマホの中でマンガを流通させる、ローカルマンガアプリの存在だ。
イベント会場から生まれる物語 ― ZINEは"売るもの"ではなく"渡すもの"
ホーチミンやハノイのアートイベントに足を運ぶと、コピー機製本のZINE、手作業で綴じられたコミック、リソグラフ印刷の小冊子などが並ぶ光景が珍しくなくなった。象徴的なのが、独立出版やZINE作家が集まるZINEイベントやインディー出版フェアだ。
ここでは作品を"買う"だけではなく、作家と話し、交換し、次の制作の種が生まれる。マンガは商品というより、人間関係の中を流れるメディアとして存在している。
ZINEはサブカルではなく都市文化へ ― デザインイベントとの融合
さらに、クリエイティブ系の大型イベントでも、インディー出版は"周辺文化"ではなく、デザイン文化の一部として扱われ始めている。つまりZINEは、サブカルではなく、都市のクリエイティブ生態系の一部になりつつある。
ここで起きているのは、「プロとアマの境界が曖昧になる現象」だ。作家、デザイナー、学生、会社員が同じテーブルに並ぶ。
SNSとアーカイブが支える"もう一つの出版" ― オンライン拠点の役割
オンラインでも同じ流れが見える。
ZINEライブラリ系コミュニティ、アート出版系コミュニティ、リソグラフ制作スタジオなどがつながり、**「作る → 見せる → 印刷 → 手渡す」**の流れが短距離化している。
日本のように「出版社→書店→読者」ではなく、「作者→コミュニティ→読者→次の作者」という循環に近い。
スマホの中のマンガ流通 ― ローカルマンガアプリ"MANWA"の存在
そして近年、この流れを加速させているのが、ベトナムやアジア圏で広がっているマンガアプリ群だ。その中でもベトナムで若者の利用が目立つのが、MANWAである。
このアプリの特徴は明確だ。
・スマホ縦読み前提
・短話更新型
・SNS共有しやすいUI
重要なのは、「出版社が入口ではない」点だ。ティーン層はまずアプリでマンガを知り、SNSで共有し、マンガにハマっていく層は紙・ZINE・イベントへ流れていく。つまり、アプリが"マンガ文化の入口"になっている。
これは日本の「雑誌→単行本→アニメ」という流れとは、完全に逆だ。
ベトナム型クリエイティブの核心 ― 関係性が先、ビジネスは後
ここで重要なのは、ベトナムのインディーコミックが「商業化の前段階」ではないことだ。むしろ、関係性が先、ビジネスは後という順番で育つ。SNSで共有され、イベントで手渡され、アプリで読まれ、コミュニティの中で語られる。出版はゴールではなく、「この物語は誰かに届いた」という証明に近い。
マンガ産業国家・日本と、マンガ社会・ベトナム
日本は、マンガを「産業」として世界に広げた国だ。一方、ベトナムは今、マンガを生活の中のコミュニケーション装置として育てている。
アプリ、ZINE、イベント、SNS。
それらが分断されず、同時に存在している。
静かだが強い文化 ― 次のアジアコンテンツを形作る芽
インディーコミックとZINEはまだ小さい文化だ。しかし、その広がり方は静かで、そして非常に強い。ベトナムの物語は今、出版社の会議室ではなく、イベント会場の机の上、スマホアプリの画面、SNSのタイムライン、そして友人同士の手渡しの中から生まれている。
これは、これからのアジアのコンテンツ文化を考える上で、見逃せない変化だと思う。

- ヨシヒロミウラ
ベトナム在住。北海道出身。武蔵大学経済学部経営学科卒業。専攻はマーケティング。2017年に国際交流基金日本語パートナーズとしてハノイに派遣。ベトナムの人々と文化に魅了され現在まで在住。現在進行形のベトナム事情を執筆。日本製品輸入商社と人材紹介会社に勤務。個人ブログ: ベトナムとカンボジアと日本人 X: @ihiro_x Threads: ihiro_x
























































