World Voice

ベトナムと日本人

ヨシヒロミウラ|ベトナム

ベトナム南北高速鉄道に手を挙げたVin Groupが、なぜ降りたのか?

ハノイに建設予定のオリンピック都市内のスタジアム完成予想図

前に私は「Vin Groupは国家高速鉄道に挑む」と書いた

以前、私は、Vin Groupがベトナム南北高速鉄道建設に手を挙げたことを書いた。

ベトナム北南高速鉄道計画、民間投資を解禁 VinspeedやThacoが名乗り 日本も関心を表明

民間企業が国家最大級インフラに挑む象徴的な出来事だった。しかし現在、Vingroupは南北高速鉄道から手を引いた。一見すると後退に見えるが、実態は逆だ。これは敗北ではなく、国家と企業の役割配置の再設計だろう。

一本の国家幹線より、都市経済を回す血管へ

Vingroupは鉄道事業を諦めたわけではない。グループの鉄道会社であるVin speedが現在注力しているのは、ハノイ―クアンニン高速鉄道や、ホーチミンのベンタイン―カンザー都市鉄道など、都市経済圏を支える回廊型インフラである。完成すればハノイから貿易港ハイフォンや観光地ハロン湾まで今までは2時間半かかっていたのが、30分程度で行けるようになるだろう。南北高速鉄道が国家統合の象徴だとすれば、都市回廊は経済を回す血管に近い。象徴よりも経済密度を優先する判断は、現在のベトナムの現実をよく表している。

本命は「オリンピック都市」という国家ブランド装置

IMG_9630.jpeg

現在のVingroupの重心は都市そのものの設計にある。ハノイ近郊で計画される約9,200haのオリンピック・スポーツ都市は、人口75万人規模、巨大スタジアムを中心に住宅、商業、ホテル、展示、娯楽を統合する巨大都市構想だ。これは単なる不動産ではない。国家イベントを継続的に生み出す「国家ブランド装置」として機能する可能性を持つ。

都市・エネルギー・工業・交通を一体設計する企業

さらにVingroupは製鉄、火力発電、風力発電、沿岸メガ都市開発も並行して進めている。都市、エネルギー、工業、交通を一体設計するモデルは、従来の産業企業の枠を超える。「何を作るか」ではなく、「社会の基盤をどう設計するか?」という発想だ。

「生活圏」を作るVin Group

日本企業は技術を軸に成長してきた。一方、現在のベトナム巨大企業であるVin Groupは生活圏そのものを作ろうとしている。住む、働く、遊ぶ、移動する、エネルギーを使う。これらを一つのエコシステムとして設計する。この発想は不動産でもインフラでもなく、文明設計だ。

日本企業は今、何が出来るか?

ここが最も重要だ。今のベトナム市場で、日本企業が直面する最大の変化は「単品勝負が効きにくくなっている」点である。例えば、EVを売るだけでは足りない。都市交通、充電、電力、データ、金融、生活サービスとつながらなければ競争優位は作れない。同様に、食品や外食でも、単なる輸出ではなく、「都市生活の中でどう機能するか」が問われる時代に入っている。

日本企業にとっての最大のチャンス

そして重要なのは、日本企業が弱いわけではないという点だ。むしろ強みは明確だ。

・品質設計

・長期運用

・安全基準

・現場改善

・サプライチェーン管理

これらは生活圏設計・都市OS型経済の中で極めて重要になる。

これからのベトナム市場で勝つ企業の共通点

これからベトナムで成功する企業は、「製品」を売る企業ではない。

「生活の一部」を設計できる企業となるだろう。

Vingroupが作ろうとしているもの

南北高速鉄道は国家をつなぐ。しかし都市は人生をつなぐ。Vingroupが目指しているのは移動手段ではなく、人が住み、働き、時間を過ごす理由そのものの設計と思われる。南北高速鉄道に挑もうとした企業が、今は都市そのものを作ろうとしている。この変化は、これからのベトナム経済を理解する上で極めて象徴的な動きと言えるだろう。

 

Profile

著者プロフィール
ヨシヒロミウラ

ベトナム在住。北海道出身。武蔵大学経済学部経営学科卒業。専攻はマーケティング。2017年に国際交流基金日本語パートナーズとしてハノイに派遣。ベトナムの人々と文化に魅了され現在まで在住。現在進行形のベトナム事情を執筆。日本製品輸入商社と人材紹介会社に勤務。個人ブログ: ベトナムとカンボジアと日本人 X: @ihiro_x Threads: ihiro_x

Archives

このブロガーの記事

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ