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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

虐殺を生き抜いた民族:クルディスタンの8月も祈りの月

©Vesnaandjic - iStock

しばらくの欧州での休暇を経て、先日またイラク北部のクルド自治区へと戻ってきました。

空港を出たら早速の熱気、ダスト舞う白い空。このグリルされるような暑さに「あー帰ってきたなー」と感じました。

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エルビル国際空港から見たエルビル市内 ©筆者撮影

今年の夏、心配されたほどの水不足はまだ起きてはいません。エルビル市の私の住む地域では水道管が壊れたせいで水の出が悪くなっていますが、昨年起きたような長時間に渡る断水はありません。

夜間も30℃を下回るようになり、乾燥していることからも寝苦しく感じることもなくなりました。

このまま早く秋に入ってくれるといいのですが。

  

クルディスタンの8月は祈りの月

さて日本では盛夏と残暑始まる8月ですが、ここクルディスタンにおける8月は「秋まであと一歩」という少し夏の気分も抜け始める時期になります(ただしまだまだ暑いです)。そんな8月ですが、3つの追悼を目的とした記念日が重なる月でもあります。

クルド自治政府が出している祝日などが記された公式のカレンダーを見ると、クルド自治区には多くの記念日があることが分かります。

以下に挙げる3つの追悼記念日の他に、クルディスタンの祝日には旧フセイン政権による抑圧を忘れないために虐殺の犠牲者を追悼する記念日が多く存在します。

最も有名なのが、3月16日の「ハラブジャの虐殺犠牲者追悼記念日」でしょう。過去の記事でも紹介しましたが、1988年3月16日に旧フセイン政権によって行われた化学攻撃により推計5,000人が命を落とし、今も多くの人が後遺症に苦しむ凄惨な事件でした。

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ハラブジャの虐殺記念館内部にて©筆者撮影

この日はクルド人たちが犠牲者に対しともに祈りをささげる大切な日となっています。

     

「ヤジディ教徒虐殺の犠牲者追悼記念日」

最初は8月3日にある「ヤジディ教徒虐殺の犠牲者追悼記念日」です。こちらは2019年に制定されました。

過去の記事でも詳しく紹介していますが、8月3日は2014年、過激派組織ISISによる組織としての最初のヤジディ教徒虐殺「コチョの虐殺」が始まった日になります。この日から数日の間に1,250人ものコチョ村で暮らすヤジディ教の人たちが虐殺、またはISISの奴隷とされました。

この日にはヤジディ教徒が暮らす避難民キャンプなどで記念式典が開かれ、ヤジディ教の聖地ラリシュでも追悼の祈りの儀式が行われます。

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ヤジディ教の聖地ラリシュにて ©筆者撮影

   

「アッシリア人虐殺の犠牲者追悼記念日」

次に8月7日、こちらは「アッシリア人虐殺の犠牲者追悼記念日」とされています。

イラク王国がまだ存在した1933年。英国の委任統治領から独立したての当時の政府が、イラク北西部の町シメルにてアッシリア人(キリスト教徒)を虐殺したことにはじまり、その後数週間に渡り周辺の村々で約3,000人のアッシリア人住民を虐殺しました。

アッシリア人は英国政府からの保護を受けていましたが、イラク独立後に保護勢力を失い、自治を求め反乱を起こしたことがその発端にあるとされています。

   

「アンファール作戦バディナン地区犠牲者追悼記念日」

最後は8月25日の「アンファール作戦バディナン地区犠牲者追悼記念日」です。

1980年後半に起きたクルド人の反乱を受け、当時のフセイン政権は軍事力や非人道兵器を用い容赦なく弾圧を実施しました。合計8回行われたクルド人に対する掃討作戦、それが「アンファール作戦」です。推計18万人が亡くなったと見られています。

トルコと国境を接する北西部バディナン地区に対する虐殺は1988年8月25日に実施された「アンファール作戦8」に当たります。化学兵器も使用されたこの作戦では、イラク軍に捕まったクルド人男性の多くはその場で処刑され、女性や子どもは収容所に送られました。

このアンファール作戦には8回のフェーズがあることから、それらの犠牲者をそれぞれ追悼するために、この8/25の記念日以外にも4/14は東部ガルミアン地区の犠牲者を追悼する日が、4/24は北部バルザン地区の犠牲者を追悼する日が存在します。

クルド自治政府は追悼記念日の際にはいつも、イラク中央政府に対してアンファール作戦による被害者への救済を求めています。自治政府は被害者救済のための省庁も創設しています。

   

今回はクルディスタンの記念日をいくつか紹介しました。

日本で8月言えば、2つの「原爆の日」と15日にある「終戦記念日」があります。タイトルを「クルディスタンの8月"も"祈りの月」としたのはそのためです。

日本とクルディスタン。ともに3つずつ、6つの追悼記念日に今年は手を合わせたいと思います。

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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