コラム

日本関連スノーデン文書をどう読むか

2017年05月08日(月)15時30分

サイバー防衛のための協力

第11の文書は、2013年1月2日付けで、米国側はオバマ政権だが、日本では三つの民主党政権を経て、第二次安倍政権が始まった直後である。つまり、民主党政権時代の文書は今のところスノーデン文書では見つかっていないということになる。

この文書では、第2の文書で述べられていた高周波方向探知ネットワークのクロスヘア作戦への日本の参加が2009年に終わったと指摘している。何月に終わったのかは明示されていないが2009年9月に民主党の鳩山政権が成立している。しかし、文書では、日本側が撤退した理由は、クロスヘア作戦が機械による自動方向探知を目指しているのに対し、日本側が予算の関係から手動による方向探知を行いたい意向だったという。日米間で再調整が行われ、2012年7月から再度情報共有が行われるようになった。

第12の文書は2013年1月29日付けで、安倍=オバマ政権の時代である。この文書では、コンピュータ・ネットワーク防衛(CND)に対するSIGNT(シグナル・インテリジェンス)支援を提供する能力構築に関して、NSAが日本の防衛省情報本部を支援する合意を結んだという内容である。これを始めたのは内閣情報調査室のトップである内閣情報官である。

興味深いのは、日本の防衛省情報本部が2人のSIGINT専門家に中国のサイバー活動にフルタイムでフォーカスするよう命じており、米国が中国のサイバー活動を監視する際に使っているSIGINTのセレクターと呼ばれる指標を日本側に提供したというくだりである。そして、NSA側の担当者が日本を訪問し、内閣情報調査室と防衛省情報本部と協議し、中国のサイバー活動に関するSIGINT情報をいかに発展させるか検討したという。

そして、最後の第13の文書は、2013年4月8日付けで、やはり安倍=オバマ政権時代である。スノーデンがハワイのNSA施設で文書をダウンロードしたのはおそらく2013年の4月で、彼は5月に香港に渡っている。事実上、これが最後の日本関連スノーデン文書なのだろう。

この文書では、NHKの番組(2017年4月24日および27日の「クローズアップ現代+」)でも一番問題になったエックスキースコア(XKEYSCORE)と呼ばれるツールの日本提供が指摘されている。しかし、これをよく見ると、日本の防衛省情報本部の要員のための3日間のトレーニング・コースを設定し、その際にサード・パーティー用のCSRK6000を提供する許可を求めているものである。「CSRK6000」が何を意味するのかはっきりしないが、おそらくトレーニング・コースのコード名だろう。

日本の情報本部はまだサイバー・ネットワーク防衛(CND)のSIGINT支援を実施する初期段階にあり、この支援はSIGINT開発(SIGDEV)やSIGINTシステムを含む。それらは以前にもNSAから情報本部へ提供されたことがあり、エックスキースコアだけでなく、ウェルシークラスター(WEALTHYCLUSTER)、カデンス(CADENCE)というツールも含まれる。日本のCND能力の向上はNSAや米国政府の利害にもかなうので、トレーニング・コースの提供を認めて欲しいと文書は言っている。ハワイにはNSAの巨大な施設があるが、そこから講師たちが来日し、2013年4月にトレーニング・コースを提供することに合意したとも記されている。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

6月改定景気動向指数、一致は前月比上昇 判断「下げ

ビジネス

スポティファイが値上げ計画、新サービス導入へ=FT

ワールド

タイ、7月乗用車生産は3カ月ぶり減少 輸出低迷 国

ワールド

スペースX「スターシップ」、打ち上げ延期 地上シス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 3
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story