コラム

日本関連スノーデン文書をどう読むか

2017年05月08日(月)15時30分

国際捕鯨委員会で監視された日本代表

第7の文書は、2007年7月13日付けで、これも安倍=ブッシュ政権時代に作られた文書である。その内容は2007年5月にアラスカで開かれた第59回の国際捕鯨委員会である。この会議で日本側は商業捕鯨モラトリアムを終了させようとしていたが、その動向をつかむためにNSAが何をしたのか報告した文書である。NSAが集めたインテリジェンスを米国商務省の2人、国務省の2人、そして、ニュージーランド政府の2人、オーストラリア政府の1人が読み、それらが役に立ったはずだと指摘している。

この文書が示しているのは、同盟国であろうと、外交交渉の場ではインテリジェンス活動の対象となるということである。純粋な民間企業の交渉事に政府のインテリジェンス機関が暗躍するのはルール違反である。米国その他の国々のインテリジェンス機関がそうした活動をしてきたという指摘も多い。しかし、国際捕鯨委員会を外交交渉の場と見なすならば、こうしたインテリジェンス活動は日常的なものと言わざるを得ない。

第8の文書は、2007年10月23日付で、米国側はブッシュ政権のままだが、日本側は福田政権に代わっている。それまで六本木のハーディー・バラックスという米軍施設にNSAのカバー・オフィスがあったという。それを虎ノ門の米国大使館の中に移した。日本駐在のNSA本体は横田基地の中にあり、大使館の中のオフィスはサテライト・オフィスという位置づけになる。

第9の文書は、2008年11月19日付けで、米国はブッシュ政権のままだが、日本は麻生政権になっている。これは第一の文書と同じく、NSAの部内誌「SIDtoday」の抜粋で、日本駐在のNSA代表者(SUSLAJと略される)へのインタビューである。

SUSLAJは、日本をはじめとするサード・パーティーにおけるNSAの評判は良いとし、日本の防衛省情報本部はNSAと似たような手法を持っているが、冷戦時代のやり方にとらわれているとも言っている。冷戦時代のやり方にとらわれているというのは、無線傍受には熱心だが、有線のデジタル通信の傍受は法的・技術的な制約に縛られており、積極的ではないという意味だろう。文書の後半は日本での経験やキャリアについて語られているだけである。

第10の文書は、2009年3月23日付で、日本は麻生政権のままだが、米国はオバマ政権に代わっている。この文書は青森県三沢基地の三沢セキュリティ作戦センター(MSOC)とNSAの本部が共同で弱い衛星電波を復調するソフトウェアを開発し、高価なハードウェアを使わなくて良くなったと指摘している。

当時のNSAの長官はキース・アレグザンダーで、彼は「全部集めろ」と号令をかけたことで知られている。当時の三沢基地で傍受していたのは16機の人工衛星で、8000以上の信号が飛んでいたという。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア決算に注目、AI業界の試金石に=今週の

ビジネス

FRB、9月利下げ判断にさらなるデータ必要=セント

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story