コラム

日本関連スノーデン文書をどう読むか

2017年05月08日(月)15時30分

日米協力、それとも日米共謀?

これらの文書をどう解釈するべきだろうか。それは読む人の立場によるだろう。スノーデンに近い立場に立つ人たちから見れば、日米両国政府が共謀し、日本国民のプライバシーを侵害しようとしていると見えるだろう。実際、スノーデンはそういう問題提起を何度もしているし、日本の報道のほとんどもそういう立場を取っていた。

しかし、私は、日米協力はここまでちゃんと進んでいるのかと思った。日本はこれまで無数のサイバー攻撃を受けている。無論、大事故につながるようなものは起きていないといえば起きていない。しかし、2011年の三菱重工業に対するサイバー攻撃、2014年のソニー・ピクチャーズに対するサイバー攻撃、2015年の日本年金機構に対するサイバー攻撃の際には多くの人が不安を覚えたはずだ。日本政府の省庁を見ても、農水省、財務省、外務省、防衛省など多くの省庁がサイバー攻撃を受けたと報道されており、おそらく報道はされていないものの、すべての省庁がサイバー攻撃を受けているはずである。そのたびに、マスコミの多くが、日本政府は何をやっているのかと批判していた。

日本政府は、2013年6月にサイバーセキュリティ戦略を出し、2014年3月に自衛隊のサイバー防衛隊を設置し、同年11月にはサイバーセキュリティ基本法を出した。それを受けて2015年9月に新しいサイバーセキュリティ戦略が出されている。すぐにできることはほぼやり尽くしている。しかし、法的・技術的な制約があって、これ以上は進みにくい状況にある。

それでも、内閣情報調査室と防衛省情報本部が一歩前に出ようとし、NSAに協力しながら、NSAからの協力を引き出し、サイバー防衛がどういうものかを理解するためにトレーニング・コースの提供を受けたことは、日本政府のサイバー防衛のための努力、国を守るための努力だと私は考えたい。

日本がNSAの施設のための経費を払い、そこで開発された機材が国外で使われていることに対する批判の声もある。しかし、在日米軍に対するホスト・ネーション・サポートは、ずいぶん前からグローバルな目的にシフトしている。つまり、日本防衛に直結することにしかお金を出さないということではなく、アジア地域、そして、グローバルな安全保障に貢献することも視野に入っている。グローバルな作戦を支援する役割を在日米軍基地は担っており、SIGINTもその一環である。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story