最新記事
NATO

ロシアの脅威を知り尽くしたスウェーデンがNATOを強くする

What Sweden Adds to NATO's Military Arsenal

2024年2月29日(木)18時39分
デービッド・ブレナン

スウェーデンが誇るステルス艦、ビスビュー級コルベット艦 Military Channel J/YouTube

<ロシアの侵攻を想定して営々と築いてきた軍事力には他国にない特徴がある。一例が、浅海で活動できる潜水艦やステルス性能を持つコルベット艦だ>

スウェーデンがNATOに加盟申請をしたのは2022 年5月。ハンガリーが最後まで難色を示していたが、同国議会が加盟を承認し、21カ月に及んだ長い待機期間がようやく終わった。

これでNATO加盟国は32カ国となる。拡大を促したのは、2022年2月に始まったロシアによる本格的なウクライナ侵攻だ。フィンランドとスウェーデンの加盟申請には、ウラジーミル・プーチン大統領はじめ、ロシアの閣僚らが脅迫じみた牽制発言を繰り返してきた。

ロシアと約1300キロにわたって国境を接するフィンランドのNATO加盟が2023年4月に確定し、さらに今回その隣国のスウェーデンも加盟したことで、北欧と北極圏におけるNATOの安全保障環境は大きく変わる。一部の加盟国に「NATOの湖」と呼ばれるようになっているバルト海は、スウェーデンの加盟により、ほぼ完全にNATO加盟国に囲まれることになった。

EU加盟国であり、NATOとも親密な協力関係にあったスウェーデンとフィンランドは、何十年も中立の立場を取りつつ、ロシアの侵攻に備えて防衛能力の構築を着々と進めてきた。両国が中立政策を放棄したことで、NATOは比較的小規模ながらもロシア軍を手こずらせ、甚大な被害を与えることに特化した2つの軍隊を手に入れたことになる。

北欧はNATOの要塞化

英シンクタンク・王立統合軍事研究所(RUSI)の国際安全保障研究ディレクターのニール・メルビンは本誌に対し、「注目すべきはスウェーデン軍の優れた装備がNATOにもたらされることだ」と語った。「空軍は高度な能力を持つ戦闘機100機余りを保有し、海軍は潜水艦の運用で長い実績を誇る。しかも、この国の防衛産業は先端的の兵器システムを開発する技術を持っている」

また加盟国が攻撃を受けたらNATO全体への攻撃とみなして防衛するというNATOの集団防衛体制がスカンジナビア半島全域に拡大されることで、「北欧はNATOの(ロシアに対する)前線のとりでに変容する」と、メルビンはみる。

ではスウェーデンの加盟で、NATOに新たにどの程度の戦力がもたらされるのか、具体的に見ていこう。現役の兵員数はわずかで、2万4000人前後。加えて予備役が1万1400人、治安維持や防災に当たる郷土防衛隊が2万1000人程度だ。復活した徴兵制により、現在は毎年6000人が予備役に加わっているが、スウェーデン政府は2025年までにこれを8000人に拡大すると発表している。

歩兵部隊を支えるのは、高い攻撃力を誇るCV90をはじめ、500台前後の歩兵戦闘車だ。スウェーデンは2023年にウクライナに51台のCV90を供与した。

スウェーデン陸軍は2023年初めの段階でドイツ製の主力戦車レオパルト2を120台配備していたが、政府発表によると少なくともその「10分の1」はウクライナに供与したという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中