最新記事

北欧

スウェーデン核攻撃を想定、ロシアが軍事演習

ロシアの北欧地域への攻撃性は、冷戦終結以降で最高レベルに達している

2016年2月5日(金)16時30分
ダミアン・シャルコフ

脆弱さを露呈 領空を窺ったロシア軍機に対し、スウェーデン空軍は即応できなかった Michael Buholzer/Files-REUTERS

 ロシア空軍はスウェーデンへの核攻撃を想定して軍事演習を行っている――。先週NATO(北大西洋条約機構)が発表した年次報告書で明らかになった。

 2013年3月にロシアがスウェーデンのストックホルム群島の東端で実施した軍事演習は、各メディアが強い関心を示した。スウェーデンのメディア報道の中には、演習内容がスウェーデンへの空襲を想定している、という憶測も見られた。

 この演習では、スウェーデン領空の境界付近までロシア空軍の爆撃機と戦闘機が急速に接近した。しかしスウェーデン空軍の対応は、呆れるほどに遅かった。即時に空軍を出動させられないスウェーデン政府は、この緊急事態に際してNATOに戦闘機の派遣を要請しなければならなかった。

 結局、NATO加盟のデンマーク空軍の戦闘機2機が、ロシアの演習に対応して現場空域に急行した。しかしこの一連の事態によって、核攻撃力を持つロシア戦闘機が首都ストックホルムの攻撃距離内に進入しても、それに対応できないスウェーデンの脆弱性が明らかになった。

【関連記事】ロシアの挑発で国防強化する北欧諸国

 NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長が先週公表した年次報告書は、当時のロシアの演習は、実際にスウェーデンへの核攻撃を想定したもので、北欧地域でのロシアの攻撃的な姿勢を指し示す、懸念される動きだと見ている。

 スウェーデン、フィンランドの両国はNATO非加盟国だが、軍事演習には頻繁に参加している。そしてここ数カ月間、ロシア機の領空侵犯に対して不満を募らせている。14~15年の2年間、NATOのバルト海空域の警備隊からロシア機の領空侵犯に対してスクランブル発進した戦闘機の出動回数は、過去最高レベルの頻度になっている。

 今回の年次報告書も北欧諸国のメディアの関心を呼んでいる。ロシアの攻撃対象はスウェーデン南部のスマランドか、ストックホルム近郊にある軍事情報拠点の国防無線施設ではないかという憶測が出ている。

【参考記事】バルト海に迫る新たな冷戦

 報告書でも確認されたロシア空軍部隊は、ミサイル爆撃機ツポレフ4機と、ジェット戦闘機スホーイ2機で編成されていた。

「包括的な軍備再編の一環として、ロシアの軍事行動・軍事演習は、冷戦終結以降で最も活発なレベルに達している」と、報告書は指摘している。

 NATOへの加盟を望むスウェーデンの世論は高まっていて、昨年9月に実施された世論調査では、回答者の41%がNATO加盟を望んでいた。13年に実施された世論調査と比較すると、10ポイントも上がっている。

 ロンドンの安全保障シンクタンク「ヨーロピアン・リーダーシップ・ネットワーク」は昨年夏に公表したリポートで、「ロシアとNATOの軍事演習の実態と規模は、偶発的な衝突の危険を増大させている」と指摘し、警鐘を鳴らしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中