最新記事

北朝鮮

あの北朝鮮軍も「規律の緩み」に危機感...「将校9割が命令無視」の異常事態とは?

2023年2月7日(火)18時49分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載
北朝鮮兵士

北朝鮮兵士(2018年9月) Danish Siddiqui-Reuters

<朝鮮人民軍といえば上層部の命令には絶対服従のイメージだが、最近では命令がまともに守られないケースも少なくないという>

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は現在、冬季訓練を行っている。例年12月1日から翌年の3月末までの長期にわたり行われる訓練だが、その真っ只中の1月に「軍紀確立評価の月」という、検閲(検査)を行った。過去にはなかった異例のことだ。

デイリーNKの軍内部情報筋によると、朝鮮人民軍総参謀部は、軍紀が乱れていないか実態を把握するための調査を各部隊に対して抜き打ちで行った。その背景には、冬季訓練に臨む将兵の態度の問題があるというのが情報筋の説明だ。

「新年は訓練場で迎えよ」という命令が下されたにもかかわらず、それがまともに守られなかったのだという。

「先月28日午後、総参謀部が国防省検収局、水路局指揮部直属の区分隊の訓練場に対して緊急検閲(抜き打ち検査)を行ったところ、軍官(将校)、下戦士(二等兵)の9割が軍服ではなく、製作軍服(私服)を着用していたことが深刻な問題となった」(情報筋)

なお、この区分隊に対しては、1月の総合訓練評価で最低点が付けられてしまった。

国内の状況が苦しいときほど引き締めを図るのが北朝鮮である。民間人の若者のヘアスタイル、ファッション、さらには言葉遣いまで「非社会主義現象」、「南朝鮮(韓国)資本主義遊び人風」などと称して、取り締まりを行っている。

(参考記事:引き出された300人...北朝鮮「令嬢処刑」の衝撃場面

若い将兵の間でも同様の現象が起きている。勤務中の韓流ドラマを見たり、韓国風のダンスを踊ったりして摘発した事例が確認されているが、私服を着ておしゃれを楽しむなど、北朝鮮の考える理想の軍人像からは遠くかけ離れた、軍紀紊乱行為であるということだ。

(参考記事:北朝鮮軍の20代兵士「不純録画物」巡り暴行死の悲劇

私服に対する総参謀部の抜き打ち検査が行われ、部隊周辺の市場では、密売されている正規の軍服の価格が高騰している。下戦士の軍服の場合、1着がコメ7キロから10キロ分で買えたのが、現在では20キロにまで上がったという。

「質が悪くとも全く手を加えていない規定に沿った軍服を買い求める下戦士が急増し、(平壌市郊外の兄弟山<ヒョンジェサン>区域の)西浦(ソポ)市場、(西城<ソソン>区域の)下新(ハシン)市場では、規定の軍服の値段が2倍に上がった」(情報筋)

とりあえず検閲を問題なくやり過ごそうということだろうが、上から押し付けられるものを「ダサい」と嫌がるのが今の北朝鮮の若者の風潮だ。ほとぼりが冷めれば、またおしゃれを楽しむようになるだろう。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権の対中AI半導体輸出規制緩和を禁止、超

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、米利下げ観測で5週ぶり安

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、FRBの利下げ期待が支え

ワールド

ウクライナ外相「宥和でなく真の平和を」、ミュンヘン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中