最新記事

ウクライナ情勢

プーチン、「処刑人」ことドゥボルニコフ将軍を総司令官に

Putin's New Commander in Ukraine 'Executioner' of Civilians: Ex-General

2022年4月11日(月)17時51分
トーマス・キカ

黒海でロシア軍の演習を視察するプーチン(左端)とドゥボルニコフ(右端) Sputnik/Alexei Druzhinin/Kremlin/REUTERS

<シリア内戦などで民間人への攻撃を主導してきた「前科」があるがプーチンの期待に応えられるかどうかは未知数>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ侵攻の司令官として新たにアレクサンドル・ドゥボルニコフ将軍を任命したと複数のメディアが伝えている。ドゥボルニコフは米軍の元幹部から「処刑人」と評される人物だ。

米欧州軍の司令官を務めたこともあるマーク・ハートリング米陸軍退役中将はCNNに対し10日、ドゥボルニコフの過去について解説するとともに、プーチンにとって望ましいウクライナ侵攻戦略を遂行するのにぴったりの人材だと思われる理由について語った。

ドゥボルニコフは現在、ロシア軍の南部軍管区の司令官を務めているが、南部軍管区にはかつて独立紛争の舞台となったチェチェン共和国や、2014年にロシアが併合したクリミア半島が含まれる。ハートリングによれば、ドゥボルニコフは民間人を攻撃したり混乱の種をまくといったことを含む作戦に長けているという。

「過去の戦闘作戦の進め方から、彼は処刑人のような存在だ(と見られている)。シリアでも(チェチェンの)グロズヌイでも、民間人への攻撃や民間施設の破壊、混乱の醸成が非常に多く行われる作戦を実行してきた」とハートリングは語った。「こういう人物が(5月9日の対独戦勝記念日に)モスクワで行われるパレードまでに成果を上げることを求められるわけだ」

ロシア軍は2015年、シリア内戦への介入を開始したが、その際に最初に司令官に任命されたのもドゥボルニコフだった。BBCによればドゥボルニコフはアサド政権軍を支援するための爆撃作戦で大きな役割を果たしたという。

部隊の立て直しには時間がかかるとの見方も

軍事戦略の専門家でNATOのアドバイザーを務めた経験もあるグウィシアン・プリンスは、ドゥボルニコフの司令官任命についてBBCに語った。ロシア軍が当初の作戦で決定的勝利を手にできなかったこと、そしてドゥボルニコフの過去の「実績」からみても、ロシア軍はウクライナ国民を恐怖に陥れる戦略に今後も力を入れるとみられるとプリンスは述べた。

もっとも、そんなドゥボルニコフをもってしてもプーチンの掲げる目標を達成できるかどうかは分からないとハートリングは言う。ウクライナ東部に展開しているロシア軍の兵力不足がその理由だ。

CNNはこれまで、ロシア軍はウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)への進軍を計画しており、それに向けて同国東部で部隊の再編成を行っていると伝えていた。だがハートリングはこうした報道を疑問視。これまでのロシア軍の兵力面、装備面での損失は大きく、東部に移動して新たな攻撃を行うのは難しいのではとの見方を示した。

「ボードゲームやビデオゲームとは違う」とハートリングは言った。「ロシア軍部隊は大きな打撃を受け、ひどい状態だ。それを立て直してもう一度戦場に送り込むのは容易ではない。再び戦闘に従事させられるようにできるとしても、かなりの時間がかかるはずだ。だから私は、ウクライナが優勢だと考える」

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、ゼレンスキー大統領を指名手配

ワールド

インドネシアGDP、第1四半期は前年比+5.11%

ワールド

パナマ大統領選、右派ムリノ氏勝利 投資・ビジネス促

ビジネス

財新・中国サービスPMI、4月52.5に低下 受注
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中