最新記事

難民

ロヒンギャ難民81人、マレーシアに上陸拒否され113日漂流 インドネシアで救出へ

2021年6月7日(月)12時46分
大塚智彦

当初はロヒンギャ族の難民船を受け入れていたマレーシアやタイは自国のコロナ感染拡大もあり、海上で発見した場合、最近は食料や水を与えて受け入れ上陸を拒否するケースが増えているという。

これに対し、ロヒンギャ族難民が漂着することが多いインドネシアのアチェ州は住民の多数が厳格なイスラム教徒で唯一イスラム法(シャーリア)に基づく統治が認められていることもあり、同じイスラム教徒であるロヒンギャ族難民を原則として受け入れてきた。

2020年6月にはコロナ感染を懸念するあまり、ロヒンギャ族の漂着を拒否したアチェ州当局の判断に地元アチェ人漁民が反発して、独自に難民を上陸させる事態も起きている。

アチェ州にはロヒンギャ族を収容する施設もあり、多数が収容されているものの、なぜか最終的にはマレーシアを目指すロヒンギャ族難民が多く、知らない間にマラッカ海峡を横断してマレーシアに密航するケースも増えているという。インドネシア人の密航請負人が船を用立ててこうした密航を支援しているとされている。

漂流中に9人が死亡

今回漂着したロヒンギャ族漂着民がインドネシアメディアに語ったところによると、海に乗り出した際は合計90人が船上にいたが、長い航海中に男性4人、女性5人の合計9人が船上で死亡したという。

また海に乗り出した直後に乗りこんでいた船がインド沖合で故障したが、付近にいたインド人漁民ら駆けつけてくれ、水漏れなどが激しいことから新たな船を提供してくれたために航海が続けられたとしている。

漂着した81人は、アチェ州ロスマウェにある収容施設などには2020年の6月と9月に漂着した合計約400人のロヒンギャ族難民に続く集団漂着という。

アチェ州では2021年1月に収容施設からロヒンギャ族難民100人以上が行方不明になる事件が発生。その後の調査で難民は密航を支援する代理人によってマラッカ海峡を横断、マレーシア密入国したものとみられている。

難民の間では、マレーシアにはコロナ禍以前から渡航したロヒンギャ族のコミュニティーがあること、不法ではあるが就業機会があることが密航の理由とされている。

ミャンマーでは2月1日の軍政によるクーデター発生後、難を逃れたバングラデシュの難民キャンプでは生活困窮とコロナ禍と厳しい環境の中、多くのロヒンギャ族が新たな自由の天地を求めて粗末な船で海に乗り出している。国際社会の支援が不可欠になっているのは間違いない。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アンソロピック企業価値1830億ドル、直近の資金調

ビジネス

米財務長官、次期FRB議長候補の面接を5日開始=W

ワールド

米政府、TSMCの中国向け製造装置輸出巡る特別措置

ビジネス

米国株式市場=下落、ダウ249ドル安 トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中