最新記事

難民

ロヒンギャ難民81人、マレーシアに上陸拒否され113日漂流 インドネシアで救出へ

2021年6月7日(月)12時46分
大塚智彦
ロヒンギャの難民

インドネシアのアチェ州の無人島にロヒンギャの難民81人が乗った船が漂着した Antara Foto/Hayaturrahmah/via Reuters

<コロナ禍やクーデターなどで世界の関心は減ったが、難民たちは今日も生き延びようとしている>

インドネシアのスマトラ島最北部にあるアチェ州の無人島に6月4日、ミャンマーの少数民族イスラム教徒のロヒンギャ族の難民81人が乗った船が漂着。付近のインドネシア人漁民が通報して明らかになった。

アチェ州当局者などがロヒンギャ族難民から事情を聴取したところ、81人はミャンマー南部からマレーシアを目指して船で脱出したものの、マレーシア当局がコロナ禍を理由に受け入れを拒否。再びマラッカ海峡北部のアンダマン海周辺を航行、船の故障などでほぼ漂流状態でアチェ州東アチェ地方の沖合にある無人のイダマン島に漂着したという。近くのアチェ人漁民が発見したロヒンギャ族は女性49人、男性21人、子供11人で食料、飲料水が枯渇状態だったという。

ミャンマーではなくバングラデシュから

アチェ州当局者に対して漂着したロヒンギャ族の人々は「ミャンマー南部から来た」と述べているというが、国連難民高等弁務官事務所の関係者などは「たぶん彼らはミャンマーから隣国バングラデシュ南東部にある難民キャンプに逃れ、そこから船でマレーシアを目指したものと思われる」としている。

ミャンマー西部ラカイン州などに定住していたロヒンギャ族は仏教徒が多数の同国では少数派のイスラム教徒であることや、ミャンマー政府から正式の市民権や国籍を付与されず、長年社会的経済的な差別を受けていた。

2016年10月にロヒンギャ族武装勢力「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」がラカイン州にあるミャンマー警察施設3カ所を襲撃したことをきっかけにミャンマー軍が治安維持名目でロヒンギャ族の武装組織壊滅に乗り出した。

その過程で多くのロヒンギャ族の市民が軍兵士に虐殺、暴行、家屋放火、女性はレイプなどの人権侵害される事件が発生。多数が隣国バングラデシュに難を逃れた。

バングラデシュ南東部チッタゴン管区にあるコックスバザールなどに設けられたロヒンギャ族の難民キャンプでは約70万人が避難所生活を送っている。

アチェ州はロヒンギャ族難民拒否せず

バングラデシュのロヒンギャ族難民キャンプはほぼ飽和状態で政府による人道支援はあるものの、食料は慢性的に不足。医療事情が悪くコロナ感染防止が不十分であること、さらに居住区では顔役による暴力や物品の奪取などがあるとされ、必ずしも平穏なキャンプ生活が維持できないのが実状といわれている。

こうした状況から逃れるために多くのロヒンギャ族難民が新たな生活拠点を求めて、イスラム教徒が多いマレーシアやインドネシア、地理的に近いタイなどを目指して船で脱出を図るケースが絶えない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用4月17.7万人増、失業率横ばい4.2% 労

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日に初対面 「困難だが建

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中