最新記事

事件

インドネシアTV局員死亡事件 他殺から一転自殺と判断した警察発表に深まる謎

2020年7月27日(月)16時25分
大塚智彦(PanAsiaNews)

自殺か他殺か、ニュース番組の編集スタッフの死をめぐる謎は深まるばかりだ。写真はジャカルタ郊外の量販店の防犯カメラに写っていたヨディ氏。KOMPASTV / YouTube

<殴打・刺殺された遺体が見つかった事件は29人もの事情聴取のうえで、警察自殺と発表。その理由は?>

インドネシアの民放テレビ局「メトロテレビ」の局員で編集スタッフのヨディ・プラボウィ氏(26)が7月10日に南ジャカルタの高速道路脇空き地で遺体となって発見された事件を捜査していたジャカルタ首都圏警察は7月25日、ヨディ氏は自殺とみられるとの捜査結果を明らかにした。

警察は発表の中で自殺と思われる理由を5点挙げているが、いずれも自殺を決定づける十分な証拠とは言い難く、周辺関係者の聞き込み、専門家の分析結果などに基づくとその判断理由を説明している。

遺体発見2日後の12日、首都圏警察は「ヨディ氏の死亡は他殺による殺人事件である」と堂々と断定した発表をしていた(関連記事:「インドネシア、地元TV局スタッフが殴打・刺殺され遺体放置 謎だらけの事件にメディア騒然」)。さらに17日には「現場から殺人を示す可能性のある新たな証拠発見」とまで発表していた。その警察が一転して他殺説から自殺説に180度転換して事件捜査の幕を下ろそうとしている。

その背景や理由を巡ってインドネシアのマスコミの間では憶測が飛び交う事態となっている。

自殺と判断した5つの理由、警察

首都圏警察犯罪捜査課のトゥバグス・アデ・ヒダヤット課長が地元メディアに示した自殺と判断した5つの根拠は①精神的に落ち込み一種の鬱の状態にあったと思われる②凶器のナイフを自分で購入していた③恋人や親友との人間関係が上手くいっていなかった。④遺体発見現場以外に本人の血痕が飛び散っていなかった⑤刺し傷に浅深があり、防御創がない、というものである。

細かくみていくと、①のうつ状態の可能性というのはヨディ氏が事件前にジャカルタ市内中心部にあるチプトマングスモ総合病院の泌尿器科を訪れて医師と相談し、自らの意思でHIV(エイズ)検査を受けていたほか、麻薬の一種であるアンフェタミンが検死の際の尿検査で検出され、麻薬常用が疑われることからエイズ感染の可能性に悩み、精神的な不安定と麻薬服用による幻覚症状に見舞われていた可能性がある、としている。

また②のナイフ購入は7月7日の失踪当日の出勤途中である午後2時過ぎにジャカルタ西郊タンゲランにある大型量販店で犯行現場から回収されたナイフを購入した記録があり、自殺を考えた購入とみられること。③は恋人との関係が上手くいかず、「死にたい」と周辺に漏らしていたという証言がある④遺体の周辺にしか本人の血痕がなく、第3者が遺体の周辺にいた形跡、痕跡が全くない。

⑤について首と胸にある3つの刺し傷は深さ2センチと浅く、胸と首を刺した2つの傷が深くてこの2つが致命傷になったとみられるとしている。浅い傷はためらい傷であり、他者による襲撃を防ごうとした防御創もない。などが自殺を裏付ける理由として考えられるというのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシアと中国、5年間の経済協力協定を更新へ 李

ワールド

タイ裁判所、タクシン元首相の保釈許可 王室に対する

ワールド

NATO基金、AI・ロボット・宇宙技術に投資 防衛

ビジネス

米新興EVフィスカー、破産法適用を申請 交渉決裂で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...ウクライナがドローン「少なくとも70機」で集中攻撃【衛星画像】

  • 4

    800年の眠りから覚めた火山噴火のすさまじい映像──ア…

  • 5

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 6

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 7

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 8

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 10

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中