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比テロ組織が誘拐・海賊を再開か テロ専門家などシンポジウムで指摘

2020年7月31日(金)21時47分
大塚智彦(PanAsiaNews)

フィリピンのイスラム系テロ組織「アブ・サヤフ」が誘拐や海賊行為を近く再開するという。写真は今年1月にアブ・サヤフが誘拐事件を起こした海域を捜索するマレーシアの艦船 CNA/YouTbe

<中国の南シナ海進出に警戒するフィリピン。だが九段線の南にも問題が──>

フィリピン南部ミンダナオ島やスールー諸島を主な活動拠点とするイスラム系テロ組織「アブ・サヤフ」が一時中断していた誘拐や海賊行為による活動資金調達を目的とする活動を近く再開する可能性があることが分かった。テロ問題の専門家などが参加してオンラインで開かれたフォーラムで指摘されたもので、周辺国の海上治安当局や船員、漁民に対して警戒を強めるように呼びかけている。

これは新型コロナウイルスの感染防止の観点からオンラインで開催されたフォーラムの模様を「ブナールニュース」が7月29日に伝えたもので、2020年の1月に発生したインドネシア人の海上での誘拐事件以降、「アブ・サヤフ」は活動地域周辺の陸上でフィリピン軍や警察との衝突は繰り返しているものの、海上での目立った活動は報告されていないという。

ところが「アブ・サヤフはその活動資金が枯渇してきており、このままでは一般のフィリピン人からの支持を繋ぎとめることが難しくなっている」として、活動資金目的の誘拐、特に外国人の誘拐と海賊行為を早ければ8月から再開するのではないか、との観測が強まっているという。

テロ組織から犯罪組織化へ

フォーラムに参加したインドネシアのシンクタンク「紛争政策分析研究所(IPAC)」のイスラムテロ組織専門家であるシドニー・ジョーンズ代表は「アブ・サヤフによる誘拐は今後増えることが予想されている。その誘拐の対象は主にインドネシア人船員、漁民とみられ、フィリピンとインドネシアの間に横たわるスールー海やセレベス海などが危険対象海域となる可能性が高い」との見方を示した。

その上で「アブ・サヤフ」はかつての「イスラム系テロ組織」から現在は「単なる犯罪集団」に変容しており、誘拐や海賊行為で身代金や運搬物資を奪うことで活動資金の調達に躍起となっている、との分析を示した。

また、フォーラムに参加したフィリピンの「平和の輪財団」の代表で、フィリピンのイスラム系反政府武装組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」の元メンバーだったアリ・ファウジ氏は「ブナールニュース」に対して「アブ・サヤフは自らの活動資金と同時に活動地域に住む一般住民の生活支援のための財源が必要で、そのためにも誘拐や海賊行為での資金調達が必要不可欠な状態になっている」と指摘する。

それはどういうことかというと、「アブ・サヤフ」のメンバーが治安当局の追及を受けて逃走した場合などに「周辺の一般住民に紛れて身を隠し、住民もそれを支援して擁護するという相互依存のいわばもちつもたれつの関係を維持するために資金が必要となる」というわけだ。


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