最新記事

アジア

「帝王然とした習近平」から「敵失の安倍晋三」まで、アジア首脳の2019年を振り返る

Asia’s Prize Winners From the Year of the Pig

2019年12月26日(木)17時30分
アンソニー・フェンソム

■自画自賛で賞/スコット・モリソン(オーストラリア)

オーストラリアでは、5月に実施された総選挙で与党・保守連合が勝利。続投を決めたスコット・モリソン首相は「オーストラリア国民はなんて素晴らしいんだ!」とツイッターに投稿し、有権者に感謝を表明した。

選挙に先立つ世論調査では増税して給付も増やすと訴えた左派の野党・労働党が優勢で、まさに奇跡の逆転劇だったが、モリソン政権が幸福感に浸れるのも今のうちだけかもしれない。

景気の減速で政策金利は過去最低の水準になっており、エコノミストたちは中央銀行が2020年に量的緩和に踏み切るのではと推測している。政府は約10年ぶりの財政黒字達成を大々的にアピールしているが、賃金の伸び率は低く個人消費は冷え込んでいる。

また長引く森林火災が原因で、12月にはシドニーの大気汚染がインドのニューデリーよりも深刻なレベルにまで悪化。政府の環境政策が注目されている。さらにこの深刻な事態のさなか、首相が家族とハワイで休暇を過ごしていたことに批判が拡大。モリソンは休暇を切り上げて帰国し、謝罪する事態に追い込まれた。

それでもオーストラリアは、28年連続という息の長い景気拡大を続けている。選挙の成功や弱い野党という要素に加えて、この景気拡大が今後も続くという幸運にあずかることができれば、モリソンにとっては批判の声も怖くないだろう。

■敵は近くに置いて愛でるで賞/ジョコ・ウィドド(インドネシア)

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、寛容な人物だ。10月に発足した新内閣では、4月の選挙で激しく対立した元陸軍司令官のプラボウォ・スビアントを国防相に任命した。

敵は遠ざけるよりも側に置いて利用する、というのがインドネシアの長年の伝統だが、それでもプラボウォの起用には国内外から批判の声があがった。一部のアナリストは、彼の起用によって、これ以上のリベラルな改革の見込みは絶たれたと指摘。プラボウォが国軍時代に反政府活動家の誘拐や拷問を首謀した疑いがあることに懸念を表明する者も多い。

政府や裁判制度の批判を「違法行為」とする刑法改正案は世論の強い反発を受け、国会での採決が延期されている。こうした法改正の動きは、世界最大のイスラム人口を抱える民主主義国家であるインドネシアが、権威主義に傾きつつある可能性を示唆している。

また世界的な需要の低迷が原因で貸し出しの伸び率は鈍化し、主要な輸出商品の価格は下落。ジョコにとって経済成長を加速させるための取り組みは大きな課題で、これが達成できなければ、彼の掲げる「2045年までにインドネシアのGDPを7兆ドルに成長させる」という目標の実現は難しいだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシアGDP、第1四半期は予想上回る 見通し

ビジネス

バークシャー株主総会、気候変動・中国巡る提案など否

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ワールド

ロンドンなどの市長選で労働党勝利、スナク政権に新た
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中