最新記事

中国

中国の量子通信衛星チームが米科学賞受賞

2019年2月18日(月)12時40分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

毎回言うが、それを実現させた国が、一党支配体制によって言論弾圧を強行する国家であるという恐ろしい現実を、われわれは直視しなければならない。

アメリカでは政治と科学界は無関係なのか?

さらに衝撃的なのは、ここまで敵対し、ここまで対中強硬策を断行しているアメリカが、なんと、その中国の科学的功績をたたえ、この「墨子号」チームに2018年のニューカム・クリーブランド賞(Newcomb Cleveland Prize)を授与したということである。

ニューカム・クリーブランド賞というのは、1923年にアメリカの科学振興協会(AAAS)(1848年設立)が創設したもので、中国大陸が受賞したのはこれが初めてのことだ。

同賞は前の年の6月から次の年の5月にかけて、『サイエンス』(出版元:アメリカの科学振興協会)に発表された研究論文の中から、学術価値と影響力の面で最も優れた論文を1つだけ選出し、年1回クリーブランド賞を授与する。

アメリカ科学振興協会は2006年12月に、気候変動に関する公式見解を発表し、「科学的な証拠は明らかである。人類の活動によって地球規模の気候変動が起きており、それによる社会への脅威は増大しつつある」として警鐘を鳴らしている。それも後押しして2016年の「パリ協定」(気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定)に至っているが、トランプ大統領は2017年6月に「気候変動に科学的根拠はない」として、アメリカがパリ協定から離脱すると表明した。

これに対してアメリカ国内外から強い反発があったが、アメリカの科学界もその一つだ。

政治的にはアメリカの民主党だけでなく共和党の中にもパリ協定離脱に対する反対者が多いが、そういった政治的要素を離れても反対者が多いのがアメリカの現状だろう。

中国のような一党支配体制国家は例外として、もともと科学界は政治と無関係でいなければならないものだ。したがって本来なら、アメリカ科学振興協会も中立のはずではある。

しかしパリ協定離脱など、トランプ大統領の一連の言動により、中立であるはずの科学界が、やや反トランプに傾いている要素があるかもしれない。今回の墨子号チームの受賞は、ふと、そのようなことを連想させないではない。

もし「全く無関係」なのだとすれば、逆に「中国が量子通信衛星打ち上げと量子暗号による地上との通信に成功したこと」は、「科学的に、客観的に、人類にとって非常に優れた業績である」とアメリカの科学界が判断したということになり、なお一層、悩ましいことになる。

宇宙では中国がアメリカを超えるのか?

中国は昨年12月8日に月の裏側に軟着陸するための月面探査機「嫦娥4号」を打ち上げた。月の裏側には地球上から発信した信号が月自体に遮られて届かないので、中国は信号を中継するための中継通信衛星「鵲橋(じゃっきょう)号」を昨年5月に打ち上げている。これがないと月の裏側に軟着陸することは出来ない。アンテナの役割をする中継通信衛星は、月の周りの1点に固定していなければならないが、中国はピンポイント的に、力の作用がゼロになって動かないラグランジュ点に焦点を当てて打ち当てた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ空爆 住民に避難要請の数時間後

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中