最新記事

グルメ

日本の伝統的食材こうじの魅力に世界のシェフが夢中

2017年2月22日(水)11時00分
リサ・エイベンド

西洋料理のシェフたちは食材としてまた料理の「道具」として、麹のさまざまな活用法を研究中 JONAS KING

<世界の独創的な有名レストランで、日本の食材「麹」の味と働きが斬新な形で活用され始めた>

ノーマといえば、料理の独創性で世界に知られた超有名レストラン。デンマークの首都コペンハーゲンにある店には発酵の研究部門があり、その責任者ダビド・ジルベールは2、3日おきに研究室に入り、蒸した大麦を発酵させているトレイを点検する。

けば立ったその表面は、冷蔵庫の奥に眠る食品に生えるカビによく似ている。でもジルベールは満足そう。「これが麹(こうじ)、すべてを変えるマジックだ」

日本や東アジアで何千年も前から食品類の発酵に使われてきた麹菌はカビの一種。正式にはアスペルギルス・オリゼーと言い、通常は穀類で培養される。

日本酒の醸造に使われるだけでなく、今や世界語となったウマミ(旨味)を生み出す源が麹。気が付けば西洋料理の世界にも進出していた。

「ノーマでは、麹を味付けに使う」とジルベールは言う。「でも麹がすごいのは、材料であると同時に『道具』でもあることだ。麹が出す酵素はタンパク質を分解するから、自然と肉を軟らかくしてくれる」

【関連記事】超有名レストラン「ノーマ」初の姉妹店はカジュアルに進化

ジルベールだけではない。クリエーティブなシェフたちは麹を、日本の料理人が考えもしなかった環境で育てている。

「1300年の間、仏教の影響で日本では動物の肉を食べない習慣があった。だから大豆や小麦などを麹菌で発酵させ、肉代わりのタンパク質として用いてきた」と言うのは、東京・西麻布の名店レフェルヴェソンスの生江史伸。「ノーマが肉と麹を合わせていると聞いて、つくづく感心した」

麹に挑戦しているのはノーマだけではない。米サウスカロライナ州チャールストンのマックレディズでは、味噌ペーストに使う麹を乾燥インゲンで育てている。テキサス州オースティンにあるエマー&ライのケビン・フィンクは、チーズケーキのトッピングに麹のクッキーを砕いて、まぶしている。

スペイン北部のサン・セバスチャンにあるレストラン、ムガリッツのアンドニ・アドゥリスの自慢料理は、麹で作ったライスケーキ(餅)だ。「うちの店は食感にこだわるんだ」とアドゥリスは言う。その濃厚だが軟らかい「麹からできた餅」は、まさしく「フレンチトーストのよう」だとか。

西洋料理の世界では、麹はまだ導入が始まったばかりの素材だ。しかし意欲的なシェフたちは、見つけたばかりの麹の可能性を豊かに開拓していくに違いない。ジルベールは言う。「発酵の世界は奥が深い。油で炒めるよりも(麹を加えるほうが)はるかに可能性がある」

[2017年2月21日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ミサイル駆逐艦が台湾海峡航行、中国は警告

ビジネス

ECB、急激で大幅な利下げの必要ない=オーストリア

ビジネス

ECB、年内利下げ可能 政策決定方法は再考すべき=

ビジネス

訂正(7日配信記事)-英アストラゼネカが新型コロナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中