最新記事

ミャンマー

対ミャンマー制裁、解除していいの?

2016年9月22日(木)10時40分
ベンジャミン・ソロウェイ

Carlos Barria-REUTERS

<オバマが制裁解除を約束したミャンマーの翡翠輸出は、麻薬組織や軍関係者が仕切るブラックな業界。今回の措置はオバマのアジア外交を傷つける懸念も>(写真は先週会談したオバマとスー・チー)

 オバマ米大統領の口から、大統領に就任した08年当時には予想もつかなかった言葉が飛び出した。先週14日、ミャンマー(ビルマ)の実質的指導者アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相と会談した後の会見でのこと。民政移管を進めてきたミャンマーに対するアメリカの経済制裁を段階的に解除し、輸入関税を減免する制度を再適用すると発表したのだ。

 なかでも注視すべきは、制裁解除によってミャンマーの翡翠(ひすい)の輸出が解禁されることだ。年間取引額は最大310億ドルともいわれる翡翠産業だが、仕切っているのは麻薬密売組織や軍の高官。そのため一般庶民が翡翠の輸出で潤うことはなく、国民の4人に1人は貧困状態にある。

 米政府は、5年前にミャンマーで民政化に向けた改革が始まると、経済制裁を徐々に緩和してきた。その一方、旧軍事政権とのつながりを持つ企業や個人、軍が保有する企業に関しては制裁措置を維持し続けた。ただし建設機械大手キャタピラーのように、制裁措置に参加しながら、現地の麻薬王との関係が人権団体に指摘される企業もある。

【参考記事】ミャンマー新政権も「人権」は期待薄

 今後は111の個人と企業が米財務省の制裁対象から除外され、ミャンマー軍が関与する事業への投資も可能となる。ミャンマーからの翡翠とルビーの輸入も解禁される見通しだ。ただし、ミャンマーの麻薬取引を抑止するための制裁や武器取引の禁止措置、軍関係者のアメリカへのビザ発給禁止措置は今後も継続される。

 一部の専門家からは、不正や人権侵害が横行している翡翠産業を自由にさせていいのかと懸念の声も上がっている。

 オバマが「すぐにでも」と語った対ミャンマー制裁の解除について、人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのジョン・シフトンは「恩恵を被るのは一部の人間だけ。その中に明らかに一般市民は入っていない」と言う。

 人権擁護団体グローバル・ウィットネスのジュマン・クバが指摘するように、今回の決定は「オバマの業績を危うくしかねない」。対アジア外交政策における負の遺産とならなければよいのだが。

[2016年9月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中