最新記事

イギリス政治

不安なイギリスを導く似て非なる女性リーダー

2016年7月28日(木)17時10分
エライザ・フィルビー(ロンドン大学キングズ・カレッジ歴史学講師)

From Left: Carl Court/GETTY IMAGES, Express/GETTY IMAGES

<イギリス史上2人目の女性首相になったメイには、先達のサッチャーとの共通点もあれば対照的な面もある>(同じ保守党で同じ中産階級出身のメイ〔左〕はサッチャーと比較されがち)

 1975年、保守党右派の大物キース・ジョセフが党首選で、当時の党首エドワード・ヒースへの挑戦を断念した。そのとき党内右派の盟友だったマーガレット・サッチャーは、出馬を決意した。「私たちの陣営から誰かが出なければならない。あなたが出ないなら、私が出る」

 その後、サッチャーはイギリス初の女性首相となる。第二次大戦後のイギリスで、最も存在感のあった首相かもしれない。

 そして今、テリーザ・メイがイギリスで2人目の女性首相となった。性差別的と言われても、やはり両者を比べたくなる。

 今もイギリス政治では階級がものをいう。サッチャーとメイはグラマースクール(名門公立校)の出身だ。私立エリート校出身者が牛耳る保守党では、いわば挑戦者。共に「中流の星」であり、選挙のカギを握る中流の価値観を体現する存在だ。

【参考記事】女性政治家を阻む「ガラスの天井」は危機下にもろくなる

 2人とも内閣の要職を務め、決断力と不屈の精神を証明した。サッチャーは教育科学相として名を上げたが、学校での牛乳無償配給を廃止したため大衆紙に「ミルク泥棒」とそしられた。

 メイは内相を6年間務めた。移民管理やテロ対策などを担当する難しいポストである。メイの性格はトレードマークのハイヒールにちなんで「digging her heels in(一度決めたら譲らない)」と表現され、サッチャーのハンドバッグをもじった「handbagging(猛烈に攻撃する)」と同じくらい知られるようになった。

 サッチャーは仲間をつくるタイプだったが、メイには一匹狼のようなところがある。政界特有のドロドロした部分には近寄らず、議会で内輪のグループをつくることもない。

 サッチャーとメイはどちらも改革者として世に出た。保守党がケインズ派の経済政策にしがみついているときに、サッチャーは新自由主義経済を提唱した。

 一方、メイはサッチャーの遺産のマイナス面にいち早く気付き、「感じの悪い党」というイメージを払拭するために「思いやりのある保守主義」を取るべきと訴えた。そのため、保守党に女性議員を増やす努力もした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中