最新記事

イタリア

貧乏人がフェラーリを乗り回す泥棒天国

自家用機を所有する「なんちゃって貧困層」の脱税をいくら摘発しても、国の巨額債務の前では焼け石に水

2012年1月13日(金)15時18分
エリック・ライマン

富の象徴 イタリア人は申告所得200万円程度でフェラーリを乗り回す(写真はドバイ) Reuters

 イタリアのマリオ・モンティ首相は昨年11月の就任以来、こう語ってきた。巨額の債務を削減していくには、国民全体が平等に痛みを伴う必要があると。

 このもっともらしい政策は大して注目されなかった。だが今月に入り、モンティが攻撃の矛先を脱税がはびこる超富裕層に向けると、話は変わった。

 超富裕層はターゲットにしやすい。イタリアの新聞によれば、年間所得が2万ユーロ(約200万円)未満の人々が、合計で18万8000台ものスーパーカーを所有している。フェラーリやランボルギーニ、ポルシェやBMWといった超高級車だ。プライベート・ジェットやヘリコプターは518機、ヨットは約4万2000台所有しているという。

 またイタリアでは昨年、1500万人(国民の約4分の1)が課税所得なしと申告したが、彼らの5分の1は家を少なくとも3件所有しているとの報告もある。
 
 モンティの指示を受け、国税局は富裕層のリゾート地を急襲し、脱税の証拠を押さえ始めた。ドロミテのスキーリゾートでは、42台のスーパーカーを発見。1台平均20万ユーロ相当の超高級車だが、所有者は年収2万ユーロ未満で暮らしていると主張する人たちだ。イタリアの新聞はこうした層を「見せ掛けの貧乏人」と呼んでいる。

 政府は脱税の摘発を続ける方針だが、既にモンティ政権への反感は高まっている。超富裕層はメディアへの露出を利用して、自分たちは不当に攻撃の対象になっているとアピール。さらに脱税容疑で起訴されたメディア王、シルビオ・ベルルスコーニ前首相に近い議員たちは、モンティの財政改革にへの支持を取り下げると脅している。

検問で応酬される現金や金も増加

 政府の取り締まりが厳しすぎると感じている人も多い。国税局は国境の主要検問所に、紙幣のにおいを嗅ぎつける警察犬を配備。監視カメラも設置して、紙幣を大量に積んだ不審な車両の往来がないか見張っている。

 さすがに少しは効果も出ているようだ。12月の税収は前年同月より2%近く上昇した。国境警察によれば、金13トンを積んでスイスへ渡ろうとしたトラックを摘発したり、平均すると1日に現金4万1000ユーロを押収しているという。1年前には見られなかった光景だ。

 ただし、これは取り締まり強化のおかげとも言い切れない。単に富裕層がより多額の資金を国外へ持ち出すようになっただけという話なら、イタリア経済には大打撃だ。

 さらに言えば、税収が多少増えたぐらいでは、イタリアが抱える巨額債務はびくともしない。国の借金は雪だるま式に増えており、借り入れコストも高い。改革が始まってから数週間たっても、10年物国債の利回りはデフォルト(債務不履行)水準と言われる7%を超えている。昨年財政破綻した頃のギリシャやアイルランド、ポルトガルと同じレベルだ。イタリア政府は7%でも返済可能としているが、エコノミストたちは長期的に見て無理だと警告している。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

TSMC株が6.7%急落、半導体市場の見通し引き下

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に

ビジネス

午後3時のドルは154円前半、中東リスクにらみ乱高

ビジネス

日産、24年3月期業績予想を下方修正 販売台数が見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中