最新記事

銃ロビー

銃規制を否決した米上院の「恥ずべき日」

A Shaemful Day in the Senate

規制をめぐる攻防の初戦はNRAが制したが、銃ロビーの悪あがきは長くは続かない

2013年5月8日(水)15時31分
マイケル・トマスキー(本誌コラムニスト)

 どんなに強力な政治運動もいつかは曲がり角を迎えるもの。アメリカの銃規制問題にもついにその時が来たようだ。

 先週、米上院は銃購入時の身元確認の義務付け対象をインターネット上の売買などにも拡大する法案を賛成54、反対46で否決した。可決に必要な60票に届かず、銃規制に強く反対するロビー団体、全米ライフル協会(NRA)の政治的影響力の大きさがあらためて浮き彫りになった。しかし今回の行き過ぎたロビー活動が影響力に影を落とすのは必至だ。

 昨年12月にコネティカット州の小学校で銃乱射事件が発生し、児童ら26人が犠牲になったのを受けて、アメリカでは銃規制強化を求める動きが拡大している。70年代以降、銃規制の問題では田舎で銃文化が根強い州の民主党議員がもっぱら銃支持への方針転換を迫られてきたが、今では逆だ。民主党が強い州や民主党・共和党が拮抗している州の共和党議員が銃規制支持への「転向」を迫られている。

 今回はNRAが勝利したものの、オバマ大統領が語ったとおり、これは「第1ラウンド」にすぎない。今後の戦いで形勢は逆転するだろう。

 世論調査では国民の約9割が身元確認の対象拡大を支持している。共和党のランド・ポール上院議員(ケンタッキー州選出)は、銃乱射事件の犠牲者の遺族をオバマが銃規制推進の「道具」にしていると発言したが、そんな暴言は大勢を敵に回すだけだ。銃の州間移動を奨励する修正案を「安全な地域社会」のためなどと称する詭弁のツケも必ず回ってくる。銃乱射事件の犠牲になった小学生の親たちを嘲るような言動を神が見逃すはずはない。

 選挙への影響を恐れて今回「造反」した4人の民主党議員も恥を知るべきだ。同じ民主党のジョー・マンチン上院議員を見習うといい。マンチンはNRA会員で銃規制に関しては保守的なウェストバージニア州の選出だが、規制反対から一転して規制強化法案をまとめた。

もう「逆戻り」はしない

 マンチンは、法案が銃の個人取引を禁じるものだというNRAの主張を「嘘」と言い切った。マンチンの改選は5年後の18年だが、マンチンが突然NRAの手先に逆戻りするとは思えない。マンチンと共に規制強化法案をまとめた共和党のパトリック・トゥーミー上院議員(ペンシルベニア州選出)も、本来は保守派であるにもかかわらず議員の務めを果たそうとした。

 オバマの発言はこれまでになく力強いものだった。失敗と呼びたければ呼ぶがいい。あれこそがリーダーシップだ。

 確かにNRAに戦いを挑んでも勝ち目はなかった。それでもオバマは諦めなかった。信念に従って行動した。これは政治家としては異例のことであり、オバマが何をしたか、あるいは何をしなかったかをとやかく言うべきではない。

 今回の法案否決は上院の歴史で最も暗い出来事の1つだった。まるで公民権運動時代の議事妨害──そう、銃規制は間違いなく公民権問題だ。ごく一部の銃の狂信者が自分たちの権利ばかりを声高に主張する。

 では銃乱射事件であごを完全に吹き飛ばされた幼い少年や、気丈にもわが子の棺のふたを閉めずに銃の怖さを参列者に知らしめようとした母親の権利はどうなるのか。少年の同級生や教師、おびただしい数の犠牲者の権利は?

 ミッチ・マコネル共和党上院院内総務をはじめ反対に回った46人の上院議員は惨劇に手を貸したようなものだ。規制強化を求める犠牲者や遺族の悲痛な叫びは今も消えていない。

[2013年4月30日号掲載]

ニュース速報

ワールド

米大統領選のTV討論会、過去最高の1億人が視聴か

ワールド

北朝鮮の国連加盟資格、見直すべき=韓国外相

ビジネス

デンマーク海運大手マースク、競合勢買収に意欲=会長

ワールド

英国のEU離脱交渉、2年かからない可能性=ジョンソ

MAGAZINE

特集:進化する中国軍

2016-10・ 4号(9/27発売)

高学歴人材、最新鋭兵器、洗練された組織......。かつてのイメージを覆す人民解放軍の知られざる変貌

人気ランキング

  • 1

    エジプトの過激派にナチスからの地雷の贈り物

  • 2

    米テレビ討論、クリントン「二重の負担」で不利

  • 3

    戦略なき日本の「お粗末」広報外交

  • 4

    討論初戦はヒラリー圧勝、それでも読めない現状不満層の動向

  • 5

    「親を捨てるしかない」時代に、子は、親は、どうすべきか

  • 6

    成人したら国外退去、中米の子供たちの末路

  • 7

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 8

    中国当局、国連が資産凍結した北朝鮮銀行幹部を核開発関連容疑で調査

  • 9

    米大統領選のテレビ討論会、過去最高の1億人が視聴か

  • 10

    クルーニー夫妻、虐殺でISISを告発。「覚悟はできている」

  • 1

    クルーニー夫妻、虐殺でISISを告発。「覚悟はできている」

  • 2

    X JAPANのYOSHIKI、ニューヨークでコンサートを行うと発表

  • 3

    エジプトの過激派にナチスからの地雷の贈り物

  • 4

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 5

    中国機内誌が差別的記述、撤回しても消せない傍若無人ぶり

  • 6

    安楽死が合法的でなければ、私はとうに自殺していた

  • 7

    若者がクルマを買わなくなった原因は、ライフスタイルの変化より断然「お金」

  • 8

    家事をやらない日本の高齢男性を襲う熟年離婚の悲劇

  • 9

    ヨーロッパを追われアメリカに逃れるロマの人々

  • 10

    米テレビ討論、クリントン「二重の負担」で不利

  • 1

    金正恩「公式行事での姿勢が悪い」と副首相を処刑

  • 2

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 3

    クルーニー夫妻、虐殺でISISを告発。「覚悟はできている」

  • 4

    中国で性奴隷にされる脱北女性

  • 5

    改めて今、福原愛が中国人に愛されている理由を分析する

  • 6

    蓮舫氏へ、同じ「元・中国人、現・日本人」としての忠言

  • 7

    シロクマに包囲され逃げられないロシア観測隊、番犬犠牲に

  • 8

    「スタバやアマゾンはソーセージ屋台1軒より納税額が少ない」オーストリア首相が猛批判

  • 9

    「お母さんがねたので死にます」と自殺した子の母と闘った教師たち

  • 10

    核攻撃の兆候があれば、韓国は平壌を焼き尽くす

 日本再発見 「東京のワンテーマ・ミュージアム」
アンケート調査
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

パックン(パトリック・ハーラン)

芸人も真っ青? 冗談だらけのトランプ劇場

STORIES ARCHIVE

  • 2016年9月
  • 2016年8月
  • 2016年7月
  • 2016年6月
  • 2016年5月
  • 2016年4月